第35章 軍事同盟
その時、光秀が広間に入って来た。
『おや?もう軍義は終わったのか?』
片眉を上げて光秀が呟く。
『お前な、途中で抜け出すなんて失礼極まりないぞ!』
秀吉が怒りを露にしている。
『すまんな。俺の忍から急ぎの報告が入ったものでな。ん?信長さま。その腕、どうかなさいましたか?』
光秀に問われ、経緯を説明しようとひなが一歩 光秀に近づいた。
…儚い白檀の匂いがする。
(え?この匂い…。)
『…光秀さん、着物に香を焚き染めてますか?』
この時代では、お洒落の一貫で、着物にお香の香りをつけ(焚き染める)ていたと聞いたことがある。
『いや、そのような事は…。ああ、もしや この白檀の匂いの事ですか?
それならば蘭丸でしょう。先程、あやつの居る部屋に様子を見に行き、暫くそこにおりましたので。』
『そうですか。とてもいい匂いだったもので。』
ひなは にっこりと笑うと、光秀にも先程の詳細を話した。
『なるほど。それならば早速、この話を あちこちにばら蒔くとしましょう。』
軽く頭を下げ、光秀も何処かへ行く。
(今の話が本当だとしたら、さっき あの部屋を窺っていたのは光秀さん?どうして…。)
軍事同盟は、ひなの胸に新たな疑問を残しながら粛々と終わりを告げた。