第35章 軍事同盟
『その案、なかなかいいかも。』
「貴様も、たまにはいいことを言うな。」
二人の声が重なる。
(おかしいなぁ。誉められてるのに、けなされてるような。)
『それじゃ、ひなさん。もっと仰々しく布を巻こう。』
そう言う佐助の指示のもと、本家・信長が、ひなの肘辺りまでグルグルと布を巻いていく。
着物の袖は肩近くまでたくしあげられ、三角巾のように切った布を首から掛けると左腕を吊った。
『おぉー。これで立派な怪我人だね。』
佐助の言葉に戸惑う。
『佐助くん、怪我人に立派も粗末も無いよ。』
そんな ひなの言葉を遮るように本家・信長が口を挟む。
「いや、立派でなければいかん。人は外見で他人を量る。それに、うつけは うつけらしく振る舞うがいい。」
本家・信長は、懐から真っ赤な千鳥柄の手拭いを出し、ひなの左腕に巻き付ける。
『うつけって呼ばれてるのは私じゃ無くてっ…!』
モガモガ…
話している途中で、本家・信長に口を塞がれ、自分の体に隠すように ゆっくりと体を抱き寄せられる。
「静かに。」
佐助から口パクで言われてコクンと頷く。
音もなく近付き障子を開くと、佐助は四方八方を見渡す。そこに人の気配は無い。
『気のせいか。』
開けた時と同じように静かに障子を閉めながら佐助が言う。
障子を開け閉めしたせいか、少しの風が流れた。
『あれ?この香り、どこかで嗅いだことが。どこだっけ…。』
「香り?」
『私、結構 鼻が効くんですよ。確か白檀の香り?そうだ、確か前に蘭丸くんと擦れ違った時も同じ香りがしたような…。』
でも蘭丸は一日中、誰かの監視下に置かれているはず。
「念のために蘭丸の様子を調べさせた方がいいかもしれんな。」
『解りました…。すぐに広間に戻って誰かに見に行って貰います。』
あまり気は進まないが、織田軍の安全の為だ。仕方がない。
ぺこりと二人に頭を下げてひなが部屋を出て行った。