第35章 軍事同盟
『左手?左手がどうかし…。』
えっ?
藍色の着物の袖から出ている筈の左手が無い。
『ええっ!?』
慌てて右手で触ると、そこに手の形はある。
だが、どこをどう見てみても手首から先だけが、まるで消しゴムで消したかのように綺麗に無くなっている。
あまりのことに、ひなは開いた口が塞がらない。
『これは俺の推測だけど、ひなさんと信長さまの体は繋がっているんじゃないかな?
つまり片方が薄くなれば、もう片方が濃くなる、みたいな。』
『なにそれ…。』
「二人で一人か、なるほどな。それで佐助にも俺の姿が見えたというわけだな。
神か仏か…どうしても俺達のどちらかを この時代から抹消したいらしい。」
『抹消って、そんな…。それじゃ、元の時代に戻る前に、私が消えちゃう可能性もあるってこと?』
得体の知れない恐怖に背中が ぞわつく。
あ…。
しかし、そんな思いを本家・信長も少なからず持っていたに違いない。
『ごめんなさい、信長さま。私、信長さまの気持ち、ちっとも解っていませんでした。』
「ふっ、俺は貴様ほど狼狽えてはおらん。案ずるな。」
そう言うと、ひなの頭を優しく撫でた。
その横で、佐助は顎に手を当てて唸っている。
『スーパーセルが起きるまで、あと1ヶ月。その間も多分、二人の体は不安定なままか。』
「佐助とやら、なにが言いたいのだ?」
『いや、ですから、いきなり男性の信長さまの姿が皆に見えても困るし、ひなさんの体が急に消えたら、もはやポルターガイストだし。』
「ぽ、ぽる…なんだと?」
『ポルターガイストです。ある特定の人物の周りで生じる特異現象の事で…。』