第35章 軍事同盟
本家・信長が消えるかもしれない、という衝撃の出来事があってから3日後。
安土城には、そうそうたる面々が集っていた。
高座に座るひなの右手には、越後の龍と呼ばれる上杉謙信一行が、
左手には甲斐の虎と呼ばれる武田信玄一行が鎮座している。
(今までに感じたことが無いくらいの圧!)
気圧されてなんと切り出そうか迷っていると、光秀が口火を切った。
『ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、まずは自己紹介でもいたしましょう。』
ひなの為に提案してくれたらしい。
『いいだろう。俺は上杉謙信だ。こいつは俺の部下で直江兼続だ。』
細身の男が頭を垂れる。
(この人は初めて見るな。)
ひなも軽く会釈する。佐助の姿を探すが、この場には見当たらない。
きっと屋根裏だろうとチラり見やると、謙信と目があった。
ひなは平静を装いながら目を伏せた。
二、三拍置いて信玄も口を開く。
『武田信玄だ。これは俺の右腕、真田幸村だ。その隣は今川義元、色々なものの目利きゆえ、共に来て貰った。』
(この三人は前に町中であったから知ってる。でも…。)
『まさか、あの時の お嬢さんが信長だったとは知らなかったよ。』
複雑な表情で信玄が言う。
『隠した訳では無いんです。…あの時は言うタイミングが無くて、ごめんなさい。』
ひなが素直に謝る。
『たい…みん、ぐ?魚の料理か?っていうか、訳わかんねぇ。お殿様が、なんで町中ふらついてたんだよ。』
幸村が不満げに呟く。
重ね重ね申し訳なくて、ひなは小さくなる。
『俺は君が誰だろうと構わないけどね。美しいものに罪は無いよ。
今日の立涌文(たてわくもん)の着物も美しいね。君は中々趣味がいいようだ。』
『そんなことは どうでもいい。さっさと和睦でも何でもして、元就を打つのが先決だ!』
謙信が語気を荒げて主張する。
(本家・信長さまの言っていた通りだ。この人、ホントに戦狂いなんだな。)