第34章 束の間の休息(本家・信長と)
「それに、貴様の頼みとあらば無下には出来ぬだろう。」
何かを思い出すように、本家・信長は にやりと悪う。
「とにかく、貴様は和睦が上手くいくように取り計らえ。ま、秀吉がいれば大丈夫だと思うがな。」
(あぁ、今の言葉、秀吉さんに聞かせてあげたいっ!泣いて喜びそう!)
くぅーっ!と下唇を噛んで ひなが悔しがる。
「俺があと、どのくらい この姿を保てるか解らん。
和睦が成功した暁には、顕如・毛利軍を壊滅させる為の手筈も整えるのだ。いいな?」
はい、と静かにひなが頷く。
ふと人の気配がして後を振り返る。だが、誰の姿も見えない。
『気のせいか。』
本家・信長の方に向き直ると、その姿は風のように消えていた。
(でも、きっと側にいてくれてる。)
ひなは息を吐き、天守への道を戻った。
じゃりっ…。
その背中が見えなくなると、小石を踏む音がして扉の陰から光秀が姿を現した。
『一人でなにをやっているのかと思えば、妙な事を口走っていたな…。
本家・信長とは一体 誰だ?』
その声は木々のざわめきに吸い込まれて消えた。