第3章 七松小平太
『ほんとうにやるんですか…っ…』
「往生際が悪いなぁお前も。一度決めたことは曲げんぞ私は」
『で、でも…こういうのは愛し合う者たちで…』
「黙らんとその口を塞いでしまうぞ?」
『だまります…』
鉢屋先輩と同じように、森林の中に入り、押し倒されてしまっているこの状況…。両手は頭上で、片手一つに抑え込まれてしまっているし、押し倒されたせいか、装束が少しはだけてしまっている。
怖くてやめてほしくて抗うが、今の先輩には聞いて貰えそうにない。先輩の目は既に、獲物をとらえた野獣のように瞳をギラつかせている…虎に捕まった草食動物の気分だ…
「いくぞ」
『は…い…っ…い゙っ…!』
目を瞑り意を決して受け身になれば、首筋に顔を埋められ、そのまま蝕むように強く噛まれてしまう
噛まれたところからはじくじくと熱く、痛みが広がっていく……
痛みのせいか、少しだけ涙が溢れてしまうが、彼は気付いていないのか、お構いなしにぢゅ、ちゅ、と音を立てながら首筋に吸い付いてくる
『ぅひっ…!?』
ぬるりと、生温くざらりとした彼の舌が首を這い、思わず肩が跳ねる
首元からは彼の熱く荒い息遣いが耳に掛かり擽ったくて身を捩ってしまう
『せ、せんぱっ…』
「少しの辛抱だ」
『やっ…っ、』
するり、と先輩のゴツゴツとした手が装束の中に入り込んでくる。弄るように、何かを探るように、体を這っていく…
鉢屋先輩の時よりも、厚く硬い掌は男の人を連想させるには充分だった
『ぁっ…!』
「…さらしをまいしているのか、悪いが外すぞ」
服の中をまさぐっていた手が、指先が胸に軽く当たり、小さく声をあげてしまう
首筋に埋めていた顔を上げた先輩は、少し不満そうに顔を顰めながら、片手で器用にさらしを解いていく
『いゃっ、あの…』
しゅる、しゅると擦れる音が響き渡り耳に入り込んでくる。露になっていく胸に、余計に羞恥心を感じてしまう
「………」
『ななまつ、せんぱい…?』
ぴたりと手を止め無言の七松先輩に恐る恐る声を掛けるが返事はない。
一体どうしたのだろうか…今の時間に何か気に触る事でもしてしまったのだろうか…
「この痕は…鉢屋のものか?」
『ひっ…』
さぁ、と冷たい風が体の温度をさらっていく中、なびく前髪の隙間から見えた彼の瞳に思わず怯んでしまう。体温が一気に消えていくような気がした
