第2章 桜井 良
「ねぇねぇ、桜井くん」
自習時間の最中、隣の席のさんが声をかけてきた。
「あのね、今日もハルが喧嘩に勝ってたの」
ほわわん、とした話し方と、明るい茶髪が特徴の彼女は、僕の目下片思い中の相手だ。
「本当に、ハルさんの話が好きなんですね」
「うん。だって、格好いいんだもん」
だが、彼女には既に好きな人がいるらしく、僕の失恋は今のところ確実だった。
「この前はね、近所の赤毛の子と喧嘩してたよ。負けそうで危なかったけど、最後はぼこぼこにしてた」
そしてその好きな人は、喧嘩好きで、しかも強いらしい。
こういう大人しい女子ほどそういう人に憧れるというし、更に言えば、僕は弱い男だから、好きになって貰える可能性は0に等しい。
しかも、その『ハルさん』の事を僕に話してくるのだ。
話ができるのは嬉しい、だが好きな人の更に好きな人の話を聞くのも虚しい。
だけど、話はしていたい、と、ハルさんの話をしているといつも、僕の思考は無限ループに陥る。
「ハルはね、とっても男らしくて強いんだよ。……桜井くんも強くならなきゃだね、男の子なら」
グサリ、その言葉が胸に突き刺さる。
ああ、やっぱり彼女の目には僕は男らしくないように写っているんだ。まあ、本当の本当に男らしくないけれども。
「スイマセン……」
それだけ返すので、精一杯だった。
部活を終え、家に帰ると、携帯電話に新着メールが一つあった。
送信者は、
「さんからだ……」
慌ててメールを開く。
僕の目は点になったと思う。
メールの内容はこうだ。
[桜井くんへ
これを見るのは部活が終わった後かな?
だったら、疲れているところにごめんね。
桜井くん、最近元気がないから、私の元気のもとを贈るね!]
ここまではまあ、心配してくれているのだろうという文面。上三行と最後の一行の繋がりがないのは別として。
が、問題はメールに添付されていた写真だった。