第5章 緑間 真太郎
真太郎は、前も家までラッキーアイテムを借りに来たことがあったので大して抵抗はなかった。
貸せるものなら貸してやろう、と聞いてみれば。
「弓だ」
「誰が貸すか」
私の親切心はどこかに吹っ飛び、代わりにジト目で真太郎を見る。
「うちが由緒正しき弓道一家だと知って言っているのかお前!?」
「幼馴染なのに知らない訳ないのだよ!」
「ならそんな言葉口にするなッ!」
「ラッキーアイテムが無いと命に関わる!」
「関わる訳あるかアホウ!」
「何故貸してくれない!?」
「弓は弓道家の命だ!」
ぎゃあぎゃあと暫し言いあったが、
……結局、私が折れた。
真太郎は、ラッキーアイテムのこととなると本当に頑固だ。
比較的楽に持ち歩けるものがいいだろうと、
家が開く道場で使用される子供用の弓を渡すことにした。
だが、渡す前にふと思いついて言う。
「せっかくだ。弓道、やってみるか?」
言ってみてから、しまったと思ったがもう遅い。
「……ただの思い付きだ忘れろ!」
一緒にいたら、また口論になってしまいそうで、怖い。
が、真太郎の口からは意外な言葉が飛び出した。
「やるのだよ」
「……へ?」
なんだその顔は、と真太郎にツッコまれてしまうくらい私はアホ面になったらしい。
もしやどこか悪いところでも、と真太郎の顔をまじまじと見つめる。
顔は赤くないから熱は無いだろうし。
真太郎は冗談を言うような奴だっただろうか。いや違う。
真剣に悩んでいると、
「勿論、お前の誘いだからな」
断る理由がない。
そう断言する真太郎は、小さくではあったが笑っていた。
((その言葉に、少し期待してもいいか?))
(早く教えるのだよ。どうやって構えれば…)
(子供用の弓でやるつもりか)
(互いの罵倒は照れ隠し)