第5章 心通う
~冨岡side~
祭りに出店を出していた俺は、忘れ物を取りに戻った。
その帰りに、ベンチに腰をかけている陽奈子を見つけた。
俺も祭りに誘われたが、出店のことがあったから断った。
みんなで祭りに行ったはずの陽奈子が、なぜ一人でいるのだろうか…
聞くと「はぐれた」らしい。
足には怪我もしていた。
ただはぐれただけではなさそうだ。
陽奈子は昔からわかりやすい。
特に顔に出やすいから、すぐにわかる。
「それで、お前はなぜ泣いている?」
「…な、泣いてなんか……」
誤魔化してもバレバレなはずなのに、こういう時は嘘をつく。
その癖も昔と変わらない。
恐らく陽奈子の"想い人"と、何かあったんだろう…
なんとなくそんな気がした。
「義勇さん…」
「なんだ?」
俺の名前を呼ぶと、消えてしまいそうな小さな声で陽奈子が呟く。
「人を…好きになるって…なんでこんなに、辛いの?…なんで苦しいの…?」
「…(やはり、煉獄となにか…)」
ポロポロと陽奈子から大粒の涙が溢れて止まらない。
「…泣くな。」
涙を拭うように陽奈子の頬に両手を添えて、顔を覗き込む。
「…っぎ、ゆさん……私っ…ひっ…く…杏寿郎が好き……」
「陽奈子っ…(なぜだ煉獄。なぜこいつを傷付ける…お前も陽奈子を大切に想っているなら…どうしてこいつを泣かせる…)」
もう俺の中で抑えていた気持ちが止まらなくなった。
ぎゅっ
陽奈子を強く抱き締める。
こんなにも、苦しい思いをしている陽奈子を見てはいられなかった。
「…俺なら、お前を泣かせない。」
陽奈子を抱き締める腕に更に力が入る。
「…っぎ、ゆさん…?」
「俺はお前が好きだ。」
抱き締めていた腕を緩め、陽奈子の両肩に手を置いて顔を見つめる。
「俺の隣で笑っていてくれないか?」