第5章 心通う
~夢主side~
御輿が杏寿郎達にぶつかりそうになると、またいつか見た嫌な場面を見てしまった。
しのぶちゃんを庇うように、抱き寄せる杏寿郎。
あぁ…
やっぱり杏寿郎の大切な人は、しのぶちゃんなんだ。
でなければ、何回もあんな風に大事そうに抱き寄せたりしない…
「(簪なんか貰って浮かれて…バカみたい。)」
そう思いながら陽奈子はどんどん人の波に飲まれ、遠ざかっていく。
「っい、た…」
誰かに足を踏まれ、痛みが走る
見ると履いていた下駄の鼻緒が切れていた。
「さいあくだ…」
足を覗いた拍子に、カタリと簪が落ちる。
「あっ!」
と、手を伸ばしたときにはもう遅かった
人が多いから、貰った簪はみるみる人の足によって蹴られどこかへ行ってしまった。
「…っ…(何やってんの私…泣くな!泣くな…)」
視界が涙で歪む。
それを必死で堪えて、鼻緒が切れた下駄を片手に持ち、邪魔にならないよう人混みをさけた。
「(ここなら、いいかな…)」
人通りが少なそうな道の端にベンチがあったので、そこに腰を下ろす。
「いたっ…あ、血が滲んでる」
踏まれた時は気付かなかったが、足の甲が少し擦れて血が滲んでいた。
「(ホント…ついてないな…なんで…)」
先程の杏寿郎が取った行動がフラッシュバックする。
もらった簪も落としてしまった。
「どうしてこんなに辛いの…」
そう小さく呟くと誰かが目の前にいた。
「陽奈子…足を怪我したのか?」
顔をあげると
「…義勇さん…」
いつもいつもどうしてあなたは、辛い思いをするたびに、側にいてくれるのだろうか…
「皆と祭りに行ったんじゃなかったのか?」
「人の波に飲まれて、はぐれちゃった…」
そう言うと、義勇さんはとなりに座る
「…足、こっちに出してみろ。」
と、半ば強引に足を持ち上げる。
「…っ、」
「とりあえず今はこうしておけ」
義勇さんが、持っていた手拭いで傷を覆うように足に結びつけた。