第5章 心通う
~夢主side~
みんなと出店を回っているとあるお店で足が止まる。
「…きれい。」
そう短く呟くと、杏寿郎が後ろから声をかけてくる。
「うむ。陽奈子に似合いそうなのがたくさんあるな!」
「似合うかな…?私子供っぽいから…簪なんて着けたことないし…」
と自信無さげに、杏寿郎にいう。
「そんなことはない!きっと似合うと思う…む、そうだっ!!」
何かを思い出したように杏寿郎が叫んだ。
「どしたの?おっきい声出して…」
「すまん…陽奈子、よかったら俺が簪を選ぼう!」
そう言われ嬉しさが込み上げる
「え、いいの!?嬉しい!じゃ、お願いします!」
「うむ。」
そう言うと杏寿郎は腕を組みながら、簪を選ぶ。
すると、お店のおじさんが話しかける。
「種類が多いだろう?そうだな、彼女に似合いそうな簪はこの一本差しの簪がいいだろう。この中から選ぶといい」
とにこりと優しそうに微笑む。
「よ、よもっ!かのっ…ゴホンっ、うむ、そうだな…これにしよう!」
そう言って一本の簪を選ぶと、杏寿郎はおじさんに
「これをくれないか?」
と差し出し、自分の財布を出す。
「あ、それ…使ってくれてるんだ…」
「うむ!大事にしているぞ!」
誕生日プレゼントであげた財布だ。
「…あ、ありがとっ!……って!!違う違う!!私が買うよ!?選んでもらっただけでいいから!」
杏寿郎の腕を掴む。
「俺が陽奈子に買ってやりたいのだ。ダメだったか?」
「(う、そんな聞き方はずるいと思う…)」
眉を少し下げて、しゅんとした顔をされると悔しいが許してしまう
「…じゃ、お言葉に甘えて…(こんなの…期待しない方がおかしいよ…どうして友達の私に、こんなことするの?)」
「うむ!素直でよろしい!」
結局選んでもらった簪をプレゼントしてもらう形になってしまったが、杏寿郎は満足そうだった。
「俺が着けてもいいか?」
そう杏寿郎が言うとドキリと心臓が跳ねる。
「う、うん…」
杏寿郎が後ろに回ると、簪を私の髪に差してくれる。
杏寿郎が選んでくれた簪は一本差しの玉かんざしだった。
黒い艶のある軸に淡い水色とピンクのちりめん細工の玉が着いている。
それが杏寿郎の手によって、陽奈子の髪に飾られる。