第3章 優しさに触れて
思わず目を瞑ってしまった
とんっ
前のめりになった体は、支えられていた
目を開けると車の外には子猫がいた
それと同時に自分の状況を把握して、目を見開く
ブレーキをかけて前のめりになった私を杏寿郎が左腕を出して庇ってくれていた
「大丈夫か、陽奈子?」
と優しい声音で心配そうに私を覗き込んでくる杏寿郎
ゴツゴツした大きな手、鍛え抜かれたたくましい腕。
ドクンっ
ドクン、ドクン、ドクン
心臓がうるさい。口から出てきそうだ。
それと同時に走馬灯のように、今までの杏寿郎の優しさが駆け巡る。
「(ずっと優しくしてくれた杏寿郎…その優しさがすごく暖かかった…私を見つめるその瞳も…)」
あぁ、今まで気付かない振りをして、自分を誤魔化してきたけど…
気持ちが溢れて止まらない。
もう止めることが出来ない…
私、杏寿郎が好き
好きで好きでたまらない
その気持ちに気付いた途端、一気に顔に熱が集まる。
「本当に大丈夫か?」
そう言ってまた顔を覗き込んでくるので、そっぽを向きながら答える
「え、あ、う、うんっ!!ぜ、全然大丈夫ですっ!!」
「それならよかった。子猫が飛び出してきたようなさだな」
「そう、みたい、だね…あ、うち、もうすぐそこだから!」
家に着くと先に買い物してきた荷物を降ろす
鍵を開け、ドアを開けると同時に焦げた匂いがする
「…お邪魔しま…なんだか焦げ臭いが大丈夫か?」
朝ごはんに食べる予定だったパンの存在を思い出す。
「あ、ははー。実はパン焦がしちゃって…」
そう言うと杏寿郎は少し微笑みながら
「陽奈子は、そそっかしいのだな。」
その表情にもドキドキして仕方がない。
「…っ!(もー!心臓が持たないよー!!)」
それから荷物を降ろして、ソファをと思い一緒に下に降りようとすると
「陽奈子は部屋で待っていて大丈夫だ!」
「え、でも二人で運んだ方がいいんじゃ…」
「あれくらい、俺一人で充分だ!」
そう言うと行ってしまった。
「(た、頼もしい!)」
杏寿郎がソファを持ってきてくれている間、買ってきた食材をしまうことにした
少しするとガタガタと音が玄関からしたので見に行くと、ソファを軽々持ち上げながら「どこに置くのだ?」と聞いてきた。