第2章 好きの違い
~杏寿郎side~
「ねぇ、杏寿郎!お願いがあるんだけど、いいかな?」
「む?俺に出来ることであればいいぞ?」
ニコニコと微笑みながら陽奈子は言う。
「杏寿郎のその髪を、触らせて貰えない?」
何をお願いされると思ったが、そんな簡単なことだった。
「うむ!構わんぞ、ほら!」
少し前屈みになり、頭を突き出す。
すると小さめな手が俺の髪を優しく掬う。
「ぅわぁー!思ってた通り!ふわっふわぁ~!髪、柔らかいね?」
優しく掬っては指先で遊んでみたり、頭を撫でてみたり…心地いい。
そうされていると、俺が陽奈子にしていた頭をポンポンとしていた時を思い出す。
「(俺も弟になっていたらこのような気持ちになっていたのだろうか?)」
何度も触っているうちに、陽奈子が「あ、そっか。」と何かを思い出したように呟いた。
「わかったよ、杏寿郎。ずっと思い出せなかったんだけど、今わかったよ。
杏寿郎は昔飼っていた猫に雰囲気が似てるんだ。もう何年も前に亡くなっちゃったけど…」
そう言われたので顔を上げると目の前には陽奈子の顔。
視線が合うと、にこりと少し悲しそうな顔をしながら微笑み「このクセのある毛質とかね?」と言ってくる。
ぶわぁぁっ
その途端、鳥肌にも似た何かが俺の身体を走り抜ける。
顔が熱い。そして心臓が口から出そうな程うるさい。
「(な、なんだこれは!?!?)っ!?」
陽奈子は猫の話に夢中で気付いていない。
「それでね、帰ってくると必ず玄関で待っててくれてね、ずっと私にくっついてきててー…」
いくら気持ちを落ち着かせようとしても、胸の鼓動は納まることはない。顔の熱も冷めることはない、むしろ陽奈子を見るたびにドキドキしてしまう。
初めての感覚に戸惑っていると陽奈子がそれに気付く。
「杏寿郎?どしたの?」と俺の顔を覗いてくる。
「よ、よもっっ!!!」
勢いよく後退りをしてしまう。
「大丈夫?なんか、変だよ?あ、どら焼賞味期限切れてたとか!?」
そんな話すら耳に入ってこない。
どうしていいのかわからなくなってしまった。
「…っ、す、すまない陽奈子、用事を思い出したので、今日はこれで失礼する!!」
と、嘘を付いて店から逃げるように走り去った。