第20章 しんあい *
「こ、れは…?」
「不死川夫妻に色々と聞いてきてな。悪阻の時は喉ごしのいいものが食べやすいと。あとは…」
袋の底から箱を取り出して見せる。
「熱冷まシートだ!これもいいと言っていたぞ、貼るか?」
「杏寿郎……っ、ありがとっ……ごめ、ごめんねっ…本当に、ありがとう…」
「お礼を言ったり謝ったり、君は忙しいな。ほら、横になるといい」
そっと背中と肩に手を回されて横にして貰うと、箱から熱冷まシートを取り出して額に貼ってくれた。
ひんやりとした感覚が心地よくて、目を細めているとまた頭を優しく撫でられた。
「君が一人で気負う必要はない、もっと俺を頼ってくれ。先程も言ったが、何かやろうとしてくれるその気持ちだけで俺は嬉しいからな!」
「杏寿郎…っ、ありがとっ…嬉しい…ぐすっ」
「あぁ、また泣かせてしまったな?すまない、おいで…と、言いたい所だが今はこれで。」
大きな手が私の頭を優しく撫でる。
匂いに敏感になってしまった私を気遣ってくれる。
そうしてくれることに申し訳ないと感じつつも、今はゆっくりとその優しい手で撫でられる事に小さくも幸せだと思うのだった。
それから数ヶ月。
なんとか辛い悪阻を、杏寿郎の優しさに甘えながら乗りきることが出来た。
「あ…動いた!」
「む!?きょ、今日こそはっ…」
今、妊娠中期で最近では二人の胎動を頻繁に感じる事が出来た。
杏寿郎がお腹にそっと触れる。
だけど、不思議な事に毎回杏寿郎が触れるとピタッと動きが止まってしまう。
「あれ?また止まっちゃったね…」
「むぅ……俺は父親として認めて貰えないのだろうか…」
シュンと眉を下げてひどく落ち込んでいるみたい。
だけど、先生も言っていたけどママ以外の人が触ると動きが止まることってよくあるみたい。
「そんなことないよ、きっとまだ慣れてないだけだよ。ほら、もう少し長く触ってて?きっと動いてくれるよ」
杏寿郎の手をそっとお腹に誘導して、暫く待つことにしてみた。待っている間も杏寿郎はずっとお腹に集中していて、まじまじと少しふっくらしたお腹をじっと見つめる。