第20章 しんあい *
父と母、両親から優しい眼差しを向けられて、嬉しそうに手を引かれて歩く姿に微笑ましくなる。
その母親のお腹は少し丸く、鞄にはマタニティーマークが下げられていた。
お腹に赤ちゃんがいるんだ、お姉ちゃんになるんだなぁ、あの女の子…
杏寿郎もきっとあんな風に温かい眼差しを子供に向けてくれるんだろうな。
自分達もいつかあんな風になる時が…なんて考えていた時、あることに気付いて足を止めた。
「あれ…?そういえば、今月…来てない」
毎月定期的にやってくるはずのものが、まだ来ていない。慌てて携帯のカレンダーをチェックすると、既に2週間近く過ぎていた。
家に帰るなり、薬局で買ってきた検査薬をすぐに試した。
結果は"陽性"だった。
嬉しさと困惑で小さな窓と箱を何度も確認する。
「線が…ある。線が…あるってことは…私っ、杏寿郎の…っ、」
嬉しさで涙が溢れそうになった。
次の日、お店には申し訳なかったけど「まだ体調が優れない」とお休みを貰って産婦人科に向かった。
勿論、この事は杏寿郎には内緒で。
ちゃんと自分の目で確認して、エコー写真と一緒に報告したかったから。
仕事に向かう杏寿郎に「何もしなくていいから、ゆっくり休んでなさい」と額に一つキスを落として、頭を優しく撫でると家を出ていった。
黙っていることに少しだけ罪悪感があったけど、驚かせたかったからもう少しだけ許してね?と心のなかで呟いてその後ろ姿を見送った。
「おめでとうございます、妊娠6週目ですよ。それと…」
先生の言葉に驚き、抑えていた涙が溢れる。
エコーの画面が涙で霞んで見えない、けれどしっかりと確認できる。まだ本当に小さくて、どれがどれだかわからないくらい。だけど、私の耳にはちゃんと聞こえている。一生懸命鼓動を鳴らせている、我が子の心音が。
ドック、ドック、ドック…
初めて耳にする音に少し驚きはしたけど、今まさに私のお腹のなかで育っている。
そう思うだけで更に涙が溢れる。
杏寿郎、私達のところに赤ちゃん、来てくれたよ…
これからどのタイミングで杏寿郎に伝えようか、なんて考えながら貰ったエコー写真を何度も眺めた。