第19章 誓いと常夏の島 *
「杏寿郎…もしかして、酔ってる?」
そう聞けば「酔っていない!」と言いつつも、腰に回した手を緩めることはない。
むしろ、更に密着するようにぐっと腕に力がこもる。
そして、後頭部をぐいっと引き寄せられた。
「いや、明らかに顔が赤いしっ…んんっ!?」
勢いよく唇を塞がれた。
離れようと踠いてもびくともしない。
「おーおー、早速熱々だなぁお前ら!」
よりによって、一番見られたくない人に見つかってしまう。
「そうだろう?羨ましいか、宇髄!」
そんな事を言いながらも、密着した身体を離そうとしない杏寿郎。かなり酔いが回っているのか、人目を気にすることなく私の頬や目蓋に何度もキスを落とす。
「きょ、うじゅろっ!ちょ、酔いすぎだからっ」
「むぅ…嫌か?」
まるで子犬のように眉を下げてシュンとする顔に嫌なんて言えなくて…
「嫌じゃない、けどっ…とりあえず、ちょっとあっちで酔い冷ましてこよう?」
(あぁ~、やっぱりお酒止めるべきだった…)
私が止めておけば、こんなに酔わなかったかも…と少し後悔をする。
杏寿郎の手を取り、バックヤードに連れていった。
側にあった椅子に腰かけさせ、コップに水を入れて渡すとフニャリと笑う。
「すまない、ありがとう!」
コップの水を一気に飲み干すと、ふぅと一息つく。そして、立っている私の腰に腕を回して擦り寄るように抱き付いて来た。
「杏寿郎…?」
「陽奈子…俺は幸せだ。」
「急にど」
「急にではない、今日はずっとそう思っていた。沢山の人に祝福されて嬉しくて…その隣には陽奈子、君がいる。俺の最愛の人…本当に俺は幸せ者だ。」
顔はよく見えないけど、きっとその表情は幸福に満ち溢れた顔をしているに違いない。
そっと柔らかい髪を掬い、撫でると頭を擦り寄せてくる。
「ふふっ、私も同じ気持ち…すごく、幸せ。私達は世界一幸せな夫婦だね?」
その言葉に顔をあげた。
「あぁ、二人で幸せになろう」
誰もいないバックヤードで今日何度目かのキスを交わす。
そのキスは…今までで一番、幸せに満ち溢れた口付けように感じた。
それくらい、優しくて温かくて…好きって気持ちがぎゅっと詰まった、そんなキスの温もりに目蓋を閉じた。