第19章 誓いと常夏の島 *
すっと杏寿郎の手が伸びてきて、反射的に眼を瞑ってしまった。
その手は私の頬ではなく、髪へと優しく触れた。
「これを…着けてくれたんだな。」
「あ、簪…杏寿郎から貰った大切な物だったから、どうしても着けたくて」
「君のそういうところ…俺は大好きだ!」
頬を撫でながら、にっこりと笑う杏寿郎。
毎回、どがつく程、ストレートに気持ちを伝えてくれる…
私もそんなところが好き。
あなたの全部が大好き。
側にいる、スタッフさん達が微笑ましそうに私達を見つめていた。
お色直しをしてから会場に戻ると、その後は時間があっという間に過ぎ、気が付けば両親への感謝の手紙を読むセレモニーに…
冒頭から涙が止まらず、もう何もかもがぐちゃぐちゃ。
それでも杏寿郎はずっと背中をさすって、時折涙も拭ってくれる。
「ゆっくりで大丈夫だ」と微笑みながら…
最後の最後。
贈り物を渡す場面では、お父さんも…あの厳格そうなお義父さんも顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
そんなの見たら、こっちまで釣られて泣いてしまう。
だけど、杏寿郎はそれでも涙ひとつ流してはいなかった。
寧ろ嬉しそうに眼を細め、微笑んでいた。
その瞳にうっすらと光るものがあったのは、気付くはずもなく…
二次会の会場はフィエルテ。
昨日のうちに皆で準備をしてくれたらしい。
ここを二次会の会場に選んだ理由、それは杏寿郎との思い入れがある場所だから。
そこで二次会をしたいって話をしたとき、皆すごく喜んでくれて…「陽奈子さんと煉獄さんの為です、喜んで準備しますね!」なんてしのぶちゃんがすごく張り切っていた。
お店に入ると、カウンターの奥では、義勇さんがお酒を作ってくれていた。杏寿郎と一緒に義勇さんの所へお酒を貰いに行く。
「冨岡!ありがとう、すまないが何か作って貰えるか?」
「俺からの祝いだ。度数が強い酒を使ったものに…」
「い、いやっ…遠慮しておこう!」
「遠慮するな。俺からの祝いだと言っている。」
杏寿郎の話を全く聞き入れようとしない義勇さん。