第19章 誓いと常夏の島 *
1人のスタッフが俺の顔を見て、にっこりと微笑む。
「ふふっ、新郎様。まだ早いですよ?」
「むっ!?」
「そうなってしまうのも、分からなくはないですが」
ウェットティッシュのような物で、唇に付いている陽奈子の口紅を拭われながらそう言われる。
キスをしてしまった事に気付かれた恥ずかしさで、一気に熱が顔に集まった。
「さぁ、これでいいです!新婦様もご準備はよろしいですね?」
「は…はい…!」
陽奈子もまた、俺と同じで先程の事を指摘されて顔が赤い。
「ふふっ。新婦様は、本当に新郎様から愛されていますね?」
「よもっ!?」「なっ!?」
「そんなお二人の門出のお手伝いが出来ること、光栄に思います。…それでは参りましょう」
とても暖かい言葉だ。
スタッフの一人一人、それぞれが俺たちを祝福してくれている。
こうやって沢山の暖かい言葉で迎え入れられるのだろう…
期待に胸を膨らませつつ、少しの緊張感とでなんだか落ち着かない。
陽奈子の手を取り、チャペルへと向かった。
牧師と共に、チャペルへと入ると参列者に見守られながら中央祭壇の前へ立つ。
「ご新婦様、ご入場でございます」
パイプオルガンの演奏がチャペル内に木霊する。
重厚感のある扉が開かれると、暖かい木漏れ日に包まれながらお義父さんとお義母さんに手を引かれて一歩足を進める。
陽奈子とお義母さんが向き合う。
そっとヴェールを下ろし、陽奈子に優しく微笑む。
そのお義母さんの目には、既に光るものがあるように見えた。
お義父さんの腕に手を掛けて、一歩、また一歩とこれまで歩んできた事を思い出すように、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
目の前まで来ると、お義父さんががっしりと固く手を握りしめた。
「杏寿郎くん…娘を、よろしく頼むよ!」
「はい!」
熱く大きな手はとても暖かく、どこか優しいささえ感じられる。
この手で、今まで陽奈子を大切に育ててきた。
そんな思いが伝わってくるようだった。
そっと陽奈子の手を取り、ヴェール越しに見つめると瞳が揺れているのが見えた。
それでも嬉しそうににっこりと微笑んで、差し出した手をキュッと握り返す。