第18章 代わり映えのない日々に花束を
「いつか、お前に譲りたいと、ずっと閉まっておいた。大事に扱ってくれ」
「父上…ありがとうございます!大切にします!」
陽奈子達が居る部屋へと戻ると、母上と千寿郎が俺の昔話で盛り上がっていた。
「あ、お帰りなさい!…それ、どうしたの?」
「父上からとても素晴らしいものを頂いた!」
陽奈子の側に腰を下ろし、その小さな木箱の蓋を開けて中身を見せる。
「わぁ!すごく素敵な時計だね?これをお義父さんが?」
「あぁ。俺の為にと大切に保管していたそうだ!」
「まぁ、懐かしいわね。まだ若い頃はいつも大事に着けていてくれたわ。杏寿郎が生まれてからは着けていなかったから、てっきり壊れてしまったかと思っていたけれど…ふふ、大人になった貴方の為にと、大切に閉まっていたのね」
母上が時計を懐かしむように柔らかい笑みを向ける。
「当然だ、君からの贈り物なんだ。それをいつか倅にと思い描いていた日がやっと訪れた。その時計を大事にするように、陽奈子さんのことも今以上に大切にするんだぞ」
「母上が、父上に…はい、勿論です!!」
思い出が詰まったその時計は、これから共にどんな素晴らしい時を刻んでくれるだろうか…
その後、談笑していると式の話になった。
「式はいつ挙げる予定だ?」
「そこまではまだ決めてはないですが…」
「杏寿郎、早い方がいい。花嫁をあまり待たせるなよ?」
そう言うと側にあった引き出しから、冊子のようなものを引っ張り出してテーブルに広げる。
「お、お義父さん…!?これって…」
「うむ!早い方がいいと思ってな。瑠火に頼んで、用意して貰った!陽奈子さん、ここなんてどうだ?なかなかいい所だと思うが…」
初めから、反対をするつもりはなかったようだ。
こんなものを用意しているくらい、父上は結婚の事が嬉しかったのだろう。
「杏寿郎!ここって…!」
「…!これは…」
「なんだ?…よもや、杏寿郎…プロポーズはここでしたのか?」
流石父上だ、鋭い…
今のでよく気付いたものだ。
「う…は、はい。ここでプロポーズをしました…」
「お前もなかなかロマンチストだな、杏寿郎!」
バシッと背中を叩かれて、飲もうとしていたお茶を溢してしまいそうになる。