第17章 海と夏祭り *
簪屋を後にして、暫く出店を見て歩いていると人混みのなかに宇髄さんとまきをさんを見つけた。
「あ、杏寿郎!あそこ…」
「うむ、宇髄達か!行動を共にしなくとも、今日は祭りだからな!来ていても不思議ではない!」
こうやって離れたところから見てると、冷やかしたりするあの顔はしてなくて…向けられるその眼差しは優しい。
まきをさんを愛する一人の男の人なんだなって改めて思う。
「いつもあんな表情してくれるといいんだけど…」
「む?それはどういう意味だ?」
「うぅ~ん、なんだろ…いつもはこう、悪戯っぽい顔してるでしょ?弄られてばっかりだし。だからいつもあれくらい優しい顔でいて、冷やかしたりしなければいいのにな~って思っちゃって」
そんな話をしていると、こちらに気付いた宇髄さんが近寄ってきた。
「おー、記念日はどうだ?楽しめてるか?」
「へ…?」
「なんだよ、その反応は…俺がまた茶化すかと思ったか?」
いつもなら絶対に変なこと言ってくるはずなのに、今日はいたって普通。
いや、これがいつもなら私も変なリアクションしないんだけど…
「折角のめでたい記念日だしな。今日は茶化しはなしだ!2人で楽しめよ?じゃあな」
「うむ!ありがとう!君達も祭りを楽しんでくれ!」
2人と別れると、杏寿郎が嬉しそうに宇髄さんの事を話す。
「あいつはいつもからかって来るが、俺達の事を陰ながら応援してくれている。相談もよくしているが、親身になって聞いてくれる!」
「そうなんだ…ちょっと意外って言うか、今までそんな風に感じなかったな…申し訳ないけど」
「そうだろうな!いつもの宇髄なら、そう思われても仕方がないだろう!だが、あれでも根はいい奴だぞ?あんな友を持てて、俺は幸せだと思う!」
杏寿郎は宇髄さんのことが大好きなんだろう。
それがよく伝わってくる。
逆に、宇髄さんだってきっと杏寿郎が大切なんだな…
そうじゃなきゃ、親身に相談なんか乗らないと思うし。
そう思うと私も嬉しくなって、釣られて頬が綻ぶ。
また暫く歩いていると、もうじき花火が上がるみたいで立ち止まっている人達があちこちにいた。
「陽奈子、去年花火を見た場所へ行こう!」
「うん!あそこは穴場みたいだしね!」
去年、想いが通じあったあの思い出の場所へ、手を繋いで向かった。