第15章 衝突
気持ちが落ち着かない。
ドクンっと心臓が跳ね、息が上がる。
咄嗟に、逃げてしまった。
自分でもなんで逃げたのかわからない。
どうしたらいいのか、分からない。だから逃げてしまう。逃げずに話すべきなのに…
「陽奈子!!待ってくれ!!」
私も足が速い方だけど、杏寿郎には敵わない。
あっという間に追い付かれたかと思うと手首を強く掴まれた。振りほどこうにも、その力には勝てることなく、そのまま掻き抱くように後ろから力強く抱き締められた。
「…っ、痛いよっ…離してっ」
「断るっ!君に何を言われようと絶対に離しはしない!…離したくないんだ。俺から逃げないでくれ…頼む…」
いつもの溌剌とした声はなく、弱々しい。
「このままでいい、聞いてくれ。あの日のことまずは謝りたい。君を不安にさせてしまった、本当にすまなかった…。」
大好きな杏寿郎の温もりと受話器越しではない、愛しい人の声が直に耳に届く。嬉しいのか、それとも悲しかったから…?どの感情か分からないけど、目頭が熱くなる。
「っ…杏、寿郎…」
「あの時、取り返してでも君に話しておくべきだった。あの後、携帯を服の中に隠されてしまってな。流石にあの状況では取り返すことが難しくてな…」
服の中に…それじゃ、取り返したくても出来ないはずだ。セクハラって言われてしまいそうだし…
「それにかなり泥酔状態で、1人で帰しては危険だと思って、動ける後輩と2人がかりで担いでビジネスホテルまで送っていったんだ。確かにホテルと聞けば変な誤解をされても可笑しくはないが…君が思うようなことは何もない…だが、そう思わせてしまった俺にも非はある。本当にすまなかった…」
それを聞いて思うことがある。
確か善逸くんの話なら、杏寿郎1人でホテルまで連れていったはず。それにラブホテルじゃない…?
聞いていた話とズレてる所がある…
「ちょ…ちょっと待って?善逸くんの話だと杏寿郎と2人でホテルに行ったって…」
「む?それは違うぞ!後輩と2人でホテルまで連れて行ったんだ…我妻少年の言っていることは事実とは異なる所があるようだな。」
善逸くんが言ってたことはほぼ合ってたけど、肝心なところが違っている。
と、言うことは…全部、私の勘違い…?
それもかなり悪い方に捉えてた。
また私の悪い癖が…ホントに治さなきゃ…