第15章 衝突
~冨岡side~
陽奈子の心はとっくに煉獄でいっぱいかと思ったが…マイナスなことばかり考えるのは、心にまだ少しだけ隙間がある。それなら、俺にもまだチャンスはあるということか。
こいつの弱みに漬け込んで、こんなことを考える俺は卑怯者だな…
煉獄だから…あいつなら。とそう思えたから何度も身を引こうと、自分の感情を抑えて今までこいつの側で見守って来た。
嬉しそうに笑みを浮かべながら俺に頼る姿。それだけで十分に嬉しかった。
だが、今の陽奈子はどうだろうか。
不安と悲しみで今にも押し潰されてしまいそうな程だ。俺の好きな笑顔はどこにもない…
「俺は…お前がそんな顔をしているのは見ていられない。今まで自分の感情を抑えて、お前の幸せを願ってきた。」
「ぎ、…ゆうさん…」
「お前にそんな顔をさせるために、煉獄に任せたつもりはない…」
そう言うと陽奈子の瞳から堪えていた涙が零れる。
その涙を拭い、頬に手を添えるとその瞳を見つめる。
「少しの隙間があるのなら…少しだけでもいい。俺のことも見てはくれないか…?前にも言ったが、俺はまだお前のことが好きでいる。煉獄を想っていることは、十分に理解している…だが、こんなに悲しい顔をさせるあいつに、お前を渡したくないと思ってしまう…」
「義勇、さん…でも、私はっ…」
「分かっている。それでも俺はお前の側にいたいと思う…お前を悲しませ、泣かせることは絶対にしない。全て受け止めてやる。だから…」
これ以上、困らせることをしては駄目だと分かっていても、抑えていた感情は歯止めが効くことはなく、陽奈子の手をそっと握ると手の甲を口元に寄せる。
「っ!義勇さんっ…ごめ…ごめんなさい…私、私っ……」
手の甲に口付ける前に、その手を払い除けられた。
「ごめ、んなさい…義勇さんの気持ちに答えることは出来ない…こんなに辛くて苦しいのも…それは、杏寿郎が大好きだからっ」
涙を流しながらも、笑ってそう答える陽奈子。
その瞬間、ずっと胸につかえていたものが取れた気がした。
初めから、隙間なんてものはなかったのだ。
少しでも、と淡い期待を抱いて、自分の気持ちを無理矢理押し付けていた。
それはきっと、心のどこか片隅で、この気持ちにけりをつけたかったからなのかも知れない…