第15章 衝突
「何をしている」
その声の主を見上げると、目の前には霞んだ義勇さんが立っていた。
「えっ…な、何って」
「なぜこいつがこんなに泣いている。お前が何かしたのか…?」
その表情は少し怒っているようで、いつもの義勇さんではないように感じた。涙で霞んではっきりとはわからないけど、そんな気がした。
「ち、違いますっ!俺はただ…」
「違うのっ…ひっく……村、田くんは…くっ…関係、ないの…」
すすり上げながら、村田くんの誤解を解く。
すると、何かに気付いたようで義勇さんの顔は更に怒りの色を増す。
「お前は先に帰れ。後は俺に任せろ…」
そう言って私を腕を掴んで立たせると、少し乱暴に腕を引かれてお店の中に連れて行かれた。
お店に入ると、側にあった椅子に座らされた。
その後すぐに村田くんが入ってきて「陽奈子ちゃん、またね…」と声を掛けて、小さくなって出ていった。今度ちゃんと謝らなきゃ…
「…」
「ぅっ…ぐすっ……」
お店には私のすすり泣く声だけが響く。
それを隣に腰かけて、ただただ黙って腕組みをして座っている義勇さん。
何も言わないのはきっと、私が落ち着くのを待っていてくれてるから…
落ち着きを取り戻すと少しずつ理由を話した。それをまた何も言わず、ずっと黙って耳を傾けてくれていた。
「それで…それからもう1週間はメールも返せなければ、電話も出れなくて…自分でもどうしていいか、わからないの…」
この間、義勇さんの優しさに甘えてしまったら傷付けてしまう…と思っていたのに、結局こうやってまた甘えてしまった。私って本当に都合が良すぎる…最低だ。
「そうか。だが、俺には煉獄がそんなことをするとは思えない。あれだけお前を想っているあいつが、お前を傷付けるようなことを簡単にするだろうか…?」
「そうなんだ、けど…実際、ホテルに2人で行ってるし…それってやっぱり……」
「はぁ~…お前は本当に頑固だな。自分がこうだと思ったら絶対に曲げない。お前の悪い癖だ、治せ。」
治せと言われてそう簡単に治せるものじゃない。
杏寿郎を信じたい気持ちは勿論ある。だけど、確信はないから……
「…お前達は互いに気を遣い過ぎだ。本音で話せないのは、まだ信頼関係が築けていないということではないのか?」