第15章 衝突
~夢主side~
ついに杏寿郎が出張に行く日が来てしまった。
あれから何回も言おうとしたけど、タイミングが悪かったり、いざ言おうとしてもなんだか言いづらくて…
別に疚しい関係でもないのに、どうしてこんなに渋ってしまうのか自分でも不思議。
それはきっと逆の立場なら、私は絶対不満を抱えるから…今までは遠慮がちに杏寿郎を好きでいたけど、今は…杏寿郎を独り占めしたい。それは杏寿郎も同じだって、この前私に言ってくれた。
そんな不安を抱えながら、今玄関口で大荷物の杏寿郎を見送るところなんだけど……
「杏寿郎…?」
「なんだ?」
「あのっ…そろそろ行かないと遅れちゃうんじゃ…」
さっきからずっと私をぎゅうっと抱き締めたまま。多分5分は経ってる。
「むぅ…わかっているんだが、これから暫く陽奈子を抱き締められないと思ってしまうと、どうも離れがたくてな…」
「私もそうだけど…でも、そろそろ本当に行かないと」
名残惜しそうにそっと身体を離すと眉を下げて寂しそう。なんだか迷子の仔犬のよう…
「ふふっ。可愛い」
「なっ!可愛いとはなんだ!俺が寂しそうにしてるのは、そんなに可笑しいか?」
「ううん。嬉しいよ?私だって同じ気持ちだもん…」
そう言ってまた抱き締めると「早く帰って来てね」と触れるだけのキスを落とした。
そうすると、下がった眉はいつも通り凛々しくなって、またお日様のような笑顔を向けてくれた。
「あぁ。なるべく早く帰れるよう、仕事を片付けてくる!連絡もまめにするから…」
「うん、待ってる」
別れ際にもう一度…今度は少し深く口付けあって、離れると杏寿郎は「行ってくる!」と行ってしまった。
「はぁ~………」
寂しいからなのか、結局言えなかったからなのか…。
大きなため息を吐いて、渋々と私も出勤するための支度に取り掛かった。