第14章 ふくらみ…ふくらむ。 *
「陽奈子、その花はどうしたのだ?」
「あ…実は…その…」
言いにくいけど、言わなきゃ変な誤解されちゃいそうだからな…、そう思って一呼吸置いて今日あった事を話そうとしたら、今度は杏寿郎の携帯が鳴る。
「むぅ…すまない…宇髄からだ。」
「お仕事の話じゃない?いいよ、私の話しは後でも大丈夫だから」
そう言いつつも内心少しホッとしていたかもしれない。何て言われるか少しだけ…ほんの少しだけだけど、怖かったから…。
杏寿郎はすごく優しいから怒るなんてことはないだろうけど、逆の立場ならいい気分はしないだろうから。
宇髄さんからの電話は案の定仕事の話のようで、かなり話し込んでいた。やっぱり後で話そうか…と部屋着に着替え終わると、電話を終えた杏寿郎が戻ってきた。その表情は少し曇っている。
「どうしたの?なんかあった…?」
「陽奈子…その、仕事で遠方へ行かなければならなくなったんだ…だから、暫く帰って来れなくなる…」
「え?出張って、こと…?」
今年から人員も増えた為、企業拡大へ向けて遠方での仕事もどんどんと請け負う話が出ていたみたい。だけど、そんな急に出張…それもかなり遠く、休みの日でも帰ってくるのは難しい距離のところに行ってしまう。
「すまない、折角一緒に住み始めたと言うのに…これではあまり意味がない気がするな…」
「仕事なんだから仕方ないよ。それで、どのくらいの期間になりそう?」
「仕事の進み具合にもよるが、2~3週間程だそうだ。」
2~3週間…杏寿郎の誕生日をちょうどまたいでしまう。残念だけど、それも仕方ない…仕事だから。
「そっか。仕方ないよね…じゃ、帰ってきたら…きちんとお祝いしようね?」
「そうか、俺の誕生日が近かったな!危うく忘れるところだった。ありがとう、陽奈子に会えなくなるのは少し寂しいが、我慢しただけ…その分会えるのが嬉しく感じるものだしな!」
そう言ってお日様みたいに笑うとぎゅっと抱き寄せて、額にキスを落とした。
出張の話で、さっきの私の話はとっくに忘れてしまっているみたい。
結局その日は言うタイミングが掴めなくて、言いそびれてしまった。まだ出張までは日数があるから、それまでにはきちんと話をして、変な誤解されないようにしないと…。
私の中で何かの塊が膨らんでいく気がした。