第14章 ふくらみ…ふくらむ。 *
意識を飛ばしてしまった陽奈子を抱き抱え、ベッドに寝かせる。申し訳ないことをしてしまったと謝罪の意味を込めてキスを落とせば、無意識なのか眠ったまま小さく笑ってくれた。
翌朝、俺の頬や唇を指先でなぞる優しい感覚で目を覚ます。瞼を開ければくすりと微笑む陽奈子にキスをひとつ落とされる。
「おはよ、杏寿郎。」
「あぁ、おはよう…身体は辛くないか?」
昨夜は激しくし過ぎてしまったと後悔して、身体を心配するとまたにっこりと笑った。
「ありがとう!少し、腰が痛いけど…後は全然!」
「そうか、すまない…」
そう言って無茶をさせてしまったと謝ると、視界が暗くなり「大丈夫」と陽奈子に抱き締められていた。ふわっと鼻を擽る香水ではない陽奈子の匂いに癒される。
「暫く、このままでもいいか?」
「うん私も、こうしてたい…」
互いを引き寄せあって、目を細めて笑い合う。
幸せばかりが続くわけではない、と知ることもなく…。
今はただ、目の前の幸せを抱き締めて…
陽奈子と一緒に住み始めて、1ヶ月半程経った。
桜の花弁の代わりに、枝先に若葉がつき始めていた。
何一つ変わることなく、平凡な毎日にさえ幸せを感じる…そんな日々が続いていた。
「じゃ、行ってくるね!」
「うむ!気をつけてな、いってらっしゃい」
毎日の日課となった見送り時のキスをして、陽奈子を送り出す。休みの俺がいつもとは逆に、出勤する陽奈子を送り出した。
仕事の陽奈子に代わって、掃除や買い物を買って出た俺は、今街へと来ていた。そこで偶然、新入り3人組と遭遇した。こちらにすぐ気付いたのは竈門少年だった。
「あれ、煉獄さん?こんにちは!買い物ですか?」
「やぁ、君達!うむっ!働く彼女の代わりに何か出来ないかと思ってな!」
そう言うと察しのいい我妻少年が勘づいたのか、奇声を上げて暴れ出したので、竈門少年が慌てて止めに入った。それを見ていた嘴平少年も「なんだ勝負かっ!?面白れぇ!」とその中に入る。
そんな凸凹コンビと会話を済ませて別れると、帰り途中にケーキ屋があったので、足を止めた。
(たまには甘いものでも食べるとするか。甘いものは疲れが取れるしな…)
そう思うと店へと足を進めた。