第13章 喜ばしき日
道場から部屋へ戻ると、千寿郎が新しいお茶を持って来てくれた。
「どうぞ、姉上!」
「あねっ!?」
「ハッハッハッ!!千寿郎、まだ姉上と呼ぶには早いのではないか?」
千寿郎の言葉に焦る陽奈子に、父上も母上も笑みが溢れる。
「そうでしょうか?でも、先程の陽奈子さん、とても格好良かったです!父上にあそこまで言えるなんて…」
「それもそうだな。だが、盗み聞きはよくない事だぞ?」
「も、申し訳ございませんっ!気になってしまって…」
シュンとする千寿郎に父上はまた優しい眼差しを向ける。
「気になるのは俺も同じだ。俺は益々君のことが気になる。君のご両親はどんな人なんだ?こんな素晴らしい娘さんなんだ、さぞかしご両親も立派な方なんだろう?」
先程あんなに反対していて、尚且つ軽率では?と言っていたのが嘘のようだ。今では陽奈子に興味深々のようだ。
「私の父は、夢に向かってひたすら突き進め、一度決めたことは最後まで諦めるな諦めなければ必ずしや結果が出ると言っていました。父は昔、空手をしていたんです。だけどそれを兄、弟にやらせるわけでなく、自分達のやりたいことを見つけてそこに情熱をそそげと…そんな風に言って育てられました。」
「…!…君の父は…俺が若かりし頃に助けてもらった恩人のような人だな」
父上が腕組をして、何やら思い返している。
幼い頃、父上の話を聞かされたことがあったが…もしや……?
「恩人…?父に心当たりがあるんですか?」
「その恩人も、君のお父様のように夢に向かって努力を惜しまず、情熱的な人だった。まさかとは思うが…陽奈子さんのお父様の名前は…?」
「え…あ、耀臣(てるおみ)ですが、父を知っているんですか?」
陽奈子のお義父さんの名前が出ると父上は目を見開いて驚いている。
「よもやっ!!!耀臣さんの娘さんだったのか!?知っているも何も、その恩人が君のお父様なんだ!なんたる偶然…いや、これは必然なのか…?」
「ち、父上!その恩人が陽奈子のお義父さんとは、一体どういうことなのです…?」
そんな偶然があるのだろうか。
陽奈子のお義父さんと父上が知り合いだったことを知ると、陽奈子との出会いは運命だったのかと改めてそう思えた。