第13章 喜ばしき日
~煉獄side~
陽奈子が倒れて慌ててしまったが、すぐに母上が対応してくれた。慌てる父上と俺をよそに、母上は至って冷静だった。
父上と2人きりになると、ぼそりと父上が口を開く。
「杏寿郎。少し手合わせをしよう」
「は、はい!よろしくお願いいたします!」
久しぶりの我が家の道場へと足を踏み入れると、嗅ぎ慣れた匂いに少し癒される。
「では…参るっ!」
「はい…!」
バシッ、カッ……
聞き慣れた竹刀のぶつかり合う音が道場に木霊する。
「…っ!」
「杏寿郎っ!まだまだお前はっ…甘い!未熟者だっ…!!」
やはり、師範ともある父上の力には圧倒されつつある。だが、俺もやられてばかりではない。
一瞬の隙を見抜くと、竹刀を振りかざす。
パンッ
「…む。腕を上げたな。俺の敗けだ」
そう言って面を取ると、いつもの堅い表情はなく、とても暖かい眼差しを向けられた。
「すまなかったな。お前を試して…」
「ち、ち…うえ?どういう…?」
まさか父上に謝罪されるとは思っておらず、呆気に取られていると続けて話し始めた。
「軽い気持ちで考えているのではないかと思ってな。まさか彼女に説教されるとは…陽奈子さんは、お前には勿体ない程の女性だ。生涯愛すると決めたのなら、その責務を全うするよう勤めるんだぞ!」
「父上…!では…!?」
「この俺にあそこまで言える人はそういないだろう、気に入った。煉獄家に嫁ぐに相応しいだろう」
嬉しさで今にも飛び上がりそうな気持ちを抑えていると、入り口の方から母上が声を掛けてきた。
「杏寿郎、見事でした。あの父から一本取るとは、成長しましたね。さ、陽奈子さん」
「あ、あの…」
母上の後ろからおずおずと顔を出す陽奈子。
その視線の先はやはり、父上だった。
「もう身体は…?」
「はい。あのっ失礼なことを言ってしまい、本当に申し訳ありませんでした!!」
深々と頭を下げる陽奈子に父上は小さく笑うと、側へ歩み寄る。
「いや、俺の方こそすまなかったな。杏寿郎を一番理解しているのは君だろう。ありがとう、こんな倅だが、どうかよろしく頼むよ」
父上の初めて見る柔らかい微笑みに、釣られて微笑むのだった。