第13章 喜ばしき日
杏寿郎の声が遠のいて、そのまま意識を飛ばしてしまった。
目が覚めると、見慣れない天井がぼんやりと視界に入った。
その横から凛とした優しい声が聞こえてくる。
「目が覚めたのね。陽奈子さん、あの後倒れたのよ。気分はどう?これ、飲めるかしら…」
どうやらあの後、意識を飛ばしてしまって、別室へと運ばれたよう。意識がはっきりとして、自分がとんでもないことを言ってしまったと後悔する。
起き上がろうとする私の背中にそっと手を支えられ、飲み物を手渡された。
「すみません…生意気なことを言ってしまった上にこんな…倒れてご迷惑かけるなんて…」
「ふふ。陽奈子さん、ありがとう。」
迷惑をかけたにも関わらず、お礼を言われるなんて一体どういうこと…?
「杏寿郎がまさか恋人を連れてくる日が来るなんて思ってもなかったわ。それに…こんなにもあの子のことを心から想ってくれている人だなんて…、杏寿郎は幸せ者です。」
「そんな…お礼を言われることは何も…」
「きっとあの人も本当は反対している訳じゃないわ。嬉しいのよ。」
「嬉しい…ですか?」
お父様が嬉しいなんて…。さっきあんなに怒って反対していたのに…
「えぇ。杏寿郎がこんなにも可愛らしくて、誠実な女の子連れてきたことが、ね?うちは男ばかりだし、あの子って恋愛なんてしたことないんじゃないかしら…だから心配もしてたのよ。だけどその心配はなさそうね。」
お母様の優しい眼差しに込み上げてくるものをぐっと堪える。
「あ、あの!お父様と杏寿郎さんは…?」
「あの2人なら道場にいるわ。」
道場?確かに杏寿郎のお家は大きくて敷地もそれなりにありそう。だけど、まさか道場なんて…
「気になりますか?では、2人の元へ行ってみましょう。立てますか?」
優しく微笑むと小さな手を差し出され、その手を握り返して2人のいる道場へと向かった。