第12章 緊張と白銀
「私が杏寿郎に教えるから!」
「いやいや、ここは俺の出番でしょ?姉ちゃん女の子に教えてあげなよ!」
どちらが俺に教えるかでちょっとした言い争いが起こっている、目の前で。少々困りはするが、心なしか嬉しかったりするものだ。
結局、じゃんけんで決めることとなって数分後に俺の隣にいたのは勝ち誇った顔をする郁茉少年だった。
「兄貴!俺がみっちり教えますからね!」
「う、うむ!よろしく頼むぞ!」
基本的な板の履き方や移動の仕方など、基礎的なことを習うと皆でリフトに乗り、上を目指した。
リフトから見る道中の景色に見入っていると、横でくすりと小さく笑う陽奈子。
「杏寿郎も子供みたいなところがあるんだね。…可愛い」
「むぅ…可愛いと言われても嬉しいものではないが……陽奈子、髪に雪が絡まっている。取ってやるから動かないでくれ」
先程少しだけ雪を使ってじゃれあった名残で、雪が髪に絡まっていた。顔を近づけてそっと髪に触れると後ろから威勢のよい声が聞こえてきた。
「お"ぉいっっ!そこ、いちゃいちゃ禁止!姉ちゃんも少しは遠慮しろよ!!だから一緒に乗せたくなかったんだよー!!」
「い、郁茉…!いちゃいちゃなんて…ば、バカ!違うからっ!!」
俺は勘違いされてもいいのだが…煽ってやろうと郁茉少年に見せ付けるように陽奈子の肩を抱き寄せれば、再び怒声がゲレンデに響き渡った。
リフトを降りて早速、教えて貰いながら下を目指す。
すると、その横を時透がすいすいと滑り降りていく…
その姿に驚いていると、さらに俺の横を颯爽と滑り降りる人影が横切った。
冨岡だ、見せ付けるように滑ると少し離れたところで止まってこちらを見ている。「どうだ!」と言わんばかりのその顔に、俺の心に火が着いた。
「郁茉少年!俺は今日、冨岡を超えたい!!どうすれば上手く滑れる!?」
「いや、流石に今日1日で義勇さんレベルは難しいと思いますけど…」
そう言いつつも郁茉少年に教えて貰えば、気付くとゆっくりだが滑れるようになっていた。