第11章 鍵とサンタ *
やっと業者さんが来てくれて、あちこちと作業を済ませて帰っていくともう22時を回っていた。
「(うわ…もうこんな時間。相当待たせちゃったな…早く帰らなきゃ)」
「陽奈子ちゃん、後は戸締まりだけだからもう行ってあげて?」
蜜璃ちゃんがコートを肩に掛けながら「時間が勿体ないから」とウィンクして背中を押してきた。
でも!っと言い掛けると「お礼は、今度お話聞かせて貰うってことにするから」とにこにこと笑顔で送り出してくれた。申し訳ない気持ちと感謝の気持ちから、ぺこぺこと何度もお辞儀をしてお店を出た。
「う~、さむっ…雪でも降るかな…?急がなきゃ!」
お店を出ると肌を刺すような寒さに身震いを一つ。それでも一刻も早く愛しい人に会いたい…走り出そうとすると後ろから聞き慣れた声がした。
「陽奈子、終わったのか?」
「えっ…杏寿郎!?ど、どうしてここに!?!?」
家にいるはずの声の主に驚いたが、それ以上に会いたくてたまらなかった杏寿郎にやっと会えた。それだけで幸福感に満たされたように感じる。
「家に居ても落ち着かなくてな。少し前からここにいた」
顔や手先が冷えきっているのか赤くなっている。どのくらい待っていたのだろうか「早く会いたくて来てしまった」と照れ臭そうに笑う杏寿郎が愛しくて…
ぎゅっと力一杯抱き締めて「ありがとう、私も会いたかった」と気持ちを込めて伝えれば、それに答えて抱き締め返してくれる。
見上げれば優しく微笑んで「それでは行こうか?」と手を差し出す。その手を握るとあまりの冷たさに「ひゃっ!」と声をあげてしまう。
「こんなになるまで待ってるなんて…嬉しいけど、杏寿郎が風邪引いちゃうよ」
握った手を頬に寄せて温めるように頬擦りをすると「陽奈子が温めてくれるんだろう?」と熱を持った瞳で見つめてくる。その言葉にこの先を想像してつい顔を紅くしてしまった。
と、惚けていると杏寿郎の手が首筋を伝う。
「きゃあっ!!つ、冷たっ!」
「こうやって君に触れていれば温かい。顔が紅いが何か変なことでも考えたのか…?」
悪戯っぽく笑う杏寿郎…本気に捉えた自分がますます恥ずかしくなった。