第10章 つどい
「記念日で思い出したが……来月はクリスマスだが、お前達は一緒に過ごせるのか?あいつは今、新店舗の準備で忙しいだろう…」
突然の冨岡の言葉に「クリスマス…?」と首を傾げて少し考えると、大事なことに気付いた。
「よもやっ!!そんな大切なことを俺は忘れていたのか!?冨岡…ありがとう!さて、どう過ごそうか…まずは陽奈子の休みを確認してから考えるとするか」
陽奈子と会えなかったせいなのか、もうそんな時期になっていた。今は11月末で、フラム2号店のオープンが年明け…そう考えるとまだまだ暫くは忙しそうだ。どこかで少しでも時間を作れればいいのだが…
「は…?お前は彼氏のくせにそんな大事なことも忘れていたのか。そんなことでは陽奈子をまた泣かせるぞ。もちろん…俺ならそんなことはしない。」
「冨岡にそんなことを言われてしまうとは…不甲斐ないな。だが!!君に陽奈子は渡さない!君もそろそろ諦めてくれないか?」
そんなやり取りを何回も繰り返しながらも、酒が進んで気が付いたら宇髄達はいなくなっていた。声くらいかけてくれてもよかったのだが……どうやら冨岡と陽奈子の話で相当盛り上がっていたみたいだ。
会計を済ませて外に出ると、冬の冷たい風が身体を掠めていく。酒で火照った身体に丁度いい。
クリスマスの予定を聞こうとメールを打ちはじめて、その手を止める。
声が聞きたい。会えないなら、せめて声だけでも…
そう思えば陽奈子に電話を掛けようと発信ボタンを押した。
プルルル…、プルルル…
何回かコール音が響いたが、出る気配がなかったので通話終了ボタンを押して小さな溜め息を吐く。
すると、すぐにメールが来た。
『電話ごめんね!今電車だから、降りたらかけ直すね!』
そんな短い内容でさえ嬉しくなって、先程の溜め息を吸い直すようかのように冷たい空気を思い切り吸い込むと、家路へと足を進めた。