第9章 ハニハニ *
怒るに決まっているだろう。
頼まれて、恋人の俺以外のやつからキスをして貰おうとしているなんて……
「当たり前だ。なぜ君はこうも簡単に触れさせるんだ。キスまでして貰おうとするなんて、一体どうい」
「は…?」「なっ!?」
「煉獄…いくら俺でもそんなことはしない。……一瞬迷ったが…」
「…いや待て。最後が気になるんだが!?」
"一瞬迷った"と言うところが引っ掛かるが……
ではこの状況はなんなのだろうか?と冷静に見渡せば、冨岡の手に小さな瓶が握られている。
「これは……蜂蜜か?」
ラベルには「アカシア花」と書かれていた。
それがなんなのかすぐにわかった。
「誤解だよ…!!今ね、義勇さんに利き蜂蜜してもらってたの」
「利き蜂蜜…?」
その後、事情を説明してもらうと自分が思い切り勘違いをしていたことが分かると、一気に恥ずかしさが込み上げる。
「……す、すまなかった冨岡。俺はてっきり…」
「誤解をされても可笑しくはない状況を作ったのは俺だ。お前が謝る必要はない」
そう言うと冨岡が蓋の空いた瓶を閉めて、袋に戻し始めた。それを陽奈子に渡すと「続きは煉獄にしてもらうといい」と言って店を出ていってしまった。
それから俺の家で利き蜂蜜をすることになったのだが……
目の前の光景に少しばかり興奮してしまう自分が本当に"本物の変態"なのでは?と思ってしまう。
「ねぇ、杏寿郎…大丈夫?」
「むっ!?何がだ?」
目隠しをしている陽奈子に心配をされたが、俺自身全く問題はないつもりだ…
「そ、それならいいんだけど…なんか息遣いが、荒い気がして…」
「そ、そんなことはないぞ?!さ、さぁ!利き蜂蜜を始めるぞ!」
陽奈子に「息遣いが荒い」と言われ、興奮していることがバレたのでは?と若干焦る。それを誤魔化すように陽奈子の顎をくいっと掴む。
「ぁ…じゃぁ、お願いします…」
「うむ!では…まずはこれだな。」
そう言って一つの小瓶からスプーンを使って掬う。
そして陽奈子の口元に持っていく。
が、途中で蜂蜜がスプーンからとろっと垂れてしまった。