第9章 ハニハニ *
「レンゲ花、アカシア花、リンゴ花…レンゲとアカシアはよく見かけるけど、リンゴって…?」
義勇さんに聞けばリンゴ花のはちみつはとても希少価値が高く、リンゴの名産地でしか手に入らないものらしい…そう考えると材料費的にもこれはなしの方がいいかな…?
「お前は今、リンゴはなしだと思っているだろう。」
「え!?(心が読めるの?)だ、だってきっと高いだろうから…使ったら原価上がっちゃうでしょ?」
「顔に出すぎだ。…今は原価よりもどれが一番合うかだろ?味を確めてから決めるのが先だ。それから原価のことを考えるのでも遅くはない」
確かに義勇さんの言う通りだ。まだどれが合うかなんて、確めてみなければわからない。そうと決まれば味見を……と、小瓶を一つ手に取って小さなスプーンで蜂蜜を口に含んでみる。
「んーっ!甘いね、おいしい。これは、リンゴ花かぁ…確かに少しリンゴっぽい味するかも…」
「そのラベルに書いてあるから、脳がそう思い込ませるんだ。何も見ずに味を確めた方がいい……陽奈子、ちょっと後ろを向け」
突然、義勇さんに言われて「え、なんで?」と聞き返したが強制的に後ろを向かされた。
かと思ったら、視界が真っ暗になって後頭部でぎゅっと何かが締め付けられた。
「ちょ!?義勇さんっ!?み、見えないんだけど…これは…?」
「こ、これはっ………いやっ……ゴホン。今から利き酒ならぬ、利き蜂蜜をやる。」
恐らく後ろにいるであろう、義勇さんの方を向けば一瞬動揺したような声音が…気のせいかな?
利き酒って日本酒の品質鑑定すること、だよね?あとは気軽に楽しめる「飲み比べ」の意味もあるって確か前に義勇さんに教えて貰ったような…
「利き、蜂蜜…?あ、なるほど!見ちゃうと先入観で味がわかっちゃうから見ないで味わうのね。了解です!じゃ、お願いしますっ!!」
気合いを入れて「さぁ、どんどん来て!」と義勇さんのいるあたりに口を開けて顔を出す。
「はぁー……少しは俺の身にもなってみろ。…でも、自分でこの状況を生み出したのが悪いか」
「義勇さん?なーにー?」
「…いいから口を開けろ」
ぐいっ
顎に手を添えられたことでぴくっと肩が跳ねた。
開いた口にとろっとした蜂蜜を少し強引にねじ込まれると一気に口内に甘い味が広がる。