第8章 気持ち
その少年を見つけて、綾少女が声をかけながら手を上げる。
「あ、来た来たー!おっそいよもー!」
「え…っと?」
陽奈子がその少年を見て首を傾げる。
始めて会ったのだろうか…どういう関係なんだ…心が落ち着かない。
目の前の仕事に集中しなくてはいけないはずなのに、向こうの席が気になって話が入ってこない。
すると、また綾少女が話し始めた。
「ちょっとー!まさか忘れちゃったの?蒼汰だよ!」
「えっ…!?蒼ちゃん!?全然わからなかったよ~、かっこよくなってたから!」
がたんっ
陽奈子の言った言葉に思わず立ち上がってしまった。
「は!?なんだよ、急に…びびったな」
「す、すまない……」
驚かせてしまったことに誤り、再び席に座る。
先程の陽奈子が放った言葉がよぎる。
"かっこよくなってた"
あれは、どういう意味だ?
かっこいいと思ってくれているのは俺だけではないのか…?
陽奈子は恥ずかしがって俺にあまりかっこいいと言ってくれない。他人には平気で言えるのだろうか?他人にはすんなりと言えて、なぜ俺には言えんのだ。
自分の心が霧で覆い尽くされるように、モヤモヤとした感情が広がっていく。
そんなことを考えていると横から不死川に肘でつつかれる。
「オイ、集中しろォ」
「…っ!す、すまない……向こうが気になってしまって…」
正直に話すと、宇髄に鼻で笑われた。
「はっ、嫉妬か?男が嫉妬なんて見苦しいだけだぞ!ま、あんだけ仲良く話してりゃ確かに気にはなるけどな~」
「嫉妬…?これがそのやきもちというやつなのか!?」
このなんとも言い表せないモヤモヤとしたこの感情が、なんなのかわからずにいたが…これが…
そう言えば、千寿郎が産まれた頃にも同じような感情になったことが少しだけあった。今まで母上を独り占め出来ていたが、弟が出来るとそれは一転した。毎日、千寿郎に付きっきりでろくにかまって貰えなかったときに、なんとも言えない気持ちになったがこれが"やきもち"というもの……
俺は、あの少年に嫉妬しているのだ。