第8章 気持ち
~煉獄side~
次の日、目が覚めると隣にいるはずの陽奈子がいない。陽奈子はあのままうちに泊まったのだ。
時計を見るとまだ5:40
早いな…、もう起きて何かしているのか?
のそのそと布団から出ると、陽奈子を探した。
するとキッチンからいい匂いが鼻をくすぐる。
朝ごはんでも作ってくれているのだろう、今日はなんだろうかと思いながらキッチンを覗く。
「陽奈子、おはよう」
「わっ!びっくりした!おはよう杏寿郎」
後ろから陽奈子を抱き締めて、軽く触れるキスをする。
「ふふっ、なんか…日課になってきたね!」
「うむ!起きた時に愛おしい人が側にいるのはいいものだ!…ところで、それはもしかして弁当か?」
指を指した先には、作り途中の弁当があった。
"もしかして"なんて言ったが、本当はそれが自分のために作ってくれたものだとすぐにわかっていた。
「う、うん。今日は早く起きれたから…あ、まだ覗かないで!楽しみがなくなっちゃうよ!」
そう言うと両手で弁当箱を隠す。
その仕草が可愛くて、また後ろから抱きつけば「楽しみにしておこう、ありがとう!」と言って頬にキスをした。
会社につくと、百瀬少女と目が合う。
俺に気付くとぱたぱたと小走りでこちらに来た。
今日は陽奈子の作ってくれた愛妻弁当…まだ妻ではないが…これがあるのでしっかりと断らなくては!いや、これがなくてもこれからは作らないでもいいと伝えなければ……
「煉獄さんっ!おはようございますっ!あの、実は今日寝坊してしまって…お弁当作れなかったんですっ、ごめんなさい!」
「は…?い、いや!丁度よかった!!今日は陽奈子が作ってくれたから大丈夫だ!それに、これからはもう作ってくれなくてもいいぞ?もう礼は充分だ!」
すると急に百瀬少女の顔が曇る。
「陽奈子さんが…?…っ、私諦めませんから!それに…お礼なんかじゃ…ないです!」
そう言って走って外に出ていってしまった。
諦めない?…お礼じゃなければなんなのだ?
一体どういうつもりで作っていたんだろうか…
さっぱりわからん。
その時後ろから「煉獄さん鈍すぎっ」「玲愛ちゃんかわいそー」と声が聞こえたの気のせいだろうか……
乙女心はなぞが多いと感じながら、仕事の支度を始めた。