第8章 気持ち
これはきっと、嫉妬しているんだ。
"私以外の女の子から、そんなことしてもらわないで"なんて言ったら杏寿郎はどんな反応するんだろう…
"重い"とか"束縛しないで"とか言われるかな…?
言ってしまったら嫌な思いをさせちゃう気がする。
黙っておこう…
私が我慢すればすべて丸く収まるもん。
「陽奈子?どうした?」
「えっ!?な、なんでもないよ。あ、今日ね!杏寿郎の好きなさつまいもご飯にしようと思ってるんだ!」
顔に出ないように気を付けながら、わざと明るく振る舞う。
大丈夫…杏寿郎、鈍いから私がやきもち妬いてるのなんて気付かない。
ご飯を食べ終わると2人で後片付けをし、ソファでまったりとテレビをつけながらくつろぐ。
これが私たちの家でのルーティーンになっていた。
《それではシークレットゲストに登場してもらいましょう!》
テレビのなかの司会者が進行していく。
「シークレットとは誰だろうな?…っ!!」
テレビに釘付けだった杏寿郎の肩が、ぴくりと小さく跳ねる。
それもそのはず、普段自分からあまり触れないのに…
今日は私から杏寿郎の肩に頭を預ける。それと同時に腕を組むように絡ませて、空いている手を握った。
「陽奈子…どうしたのだっ!?珍しいな…」
「…ん。なんとなく…嫌だった?」
そう見上げて聞いてみれば「いや、嬉しいぞ!」と満足げに微笑む杏寿郎。
なんとなく、そんなの嘘だ。
やっぱりさっきの百瀬さんのとのやり取りが、脳裏に焼き付いて消えない…
自分のなかに嫉妬心があったなんて思わなかった。恋愛なんて経験がほとんどなかったからかもしれないけれど…
嫉妬心を誤魔化すように擦りよった。
こうすれば少しだけ忘れられそうだったから……
「陽奈子…」
名前を呼ばれ顔を少しあげれば、熱をおびた瞳で私を見つめてくる杏寿郎。
「杏寿郎…」
私の顎に指を添えて上を向かせられれば、そのままキスを落とされる。
「んっ…………んんっ?!」
最初は軽いものだったけど、次第に深くなっていくキスに胸を押し返す。