第8章 気持ち
確かに俺は今までたくさん陽奈子を傷付けてしまったかも知れない…
でも、だからこそ、これからは絶対に傷付けることはしない。そう心に誓ったのだから……
どういうことだろうか…
あれから百瀬少女はなぜだか毎日のように弁当を持ってきた。
流石にこれはよくないと、何度も断ろうとしたのだがなかなかタイミングが掴めずにいた。
仕事が終わり、家に戻ると空になった弁当箱をキッチンに置いてそのまま足早にシャワーを浴びに風呂場へ向かう。
今日は陽奈子がうちに来ることになっていた。
流石に汚れたままで抱き締めるわけには行かないだろう…
風呂から上がると陽奈子からメールが入っていた。
『今向かってるよ!』
そのメールを確認して、返信をしようと打ち込んでいるとちょうどインターフォンが鳴った。
「(陽奈子か!?)早いな、今…む!?」
扉を開けて、一瞬にして固まってしまう。
目の前には愛しい彼女の姿ではなく、百瀬少女が立っていた。
「あ、よかった~、間違ってなくて!」
「な、こんなところで何をしているのだ!?」
家の住所を教えたはずがないのに、なぜここにいる…?
「え?何って、煉獄さん全然お弁当箱返してくれないですから…また作ってあげられないじゃないですか!だから、返してもらいに来たんです!」
「よもや、そんなことで……」
聞けば住所は社長から聞いたそうだ。
何を勝手に教えているんだ、うちの社長は……
だが、今きちんと断るチャンスなのでは?
そう思えばすぐに口が開いていた。
「百瀬少女、すまないが…」
「もー、玲愛でいいですっ!と言うか、百瀬少女って赤の他人っぽくて私嫌です!」
またタイミングが………うまく被せてくる…
この状況をどう回避するか考えていると、廊下の方から名前を呼ばれた。
「杏寿郎…?」
その声にはっとして、見ると陽奈子が立っていた。
「煉獄さん、誰ですか?あれ。」
「あれではない。俺の、大切な人だ。陽奈子、紹介しよう!この間話していた百瀬少女だ。」
そう言って紹介すれば百瀬少女が少し嫌そうな顔をする。