第8章 気持ち
~三人称~
9月から10月に月が変わったある日。
煉獄達の会社に、新しく事務方で働く仲間が増えるという話が出ていた。
もともと社員数は10人程度と、決して多いわけではなかった。だから今まで事務員がいたわけでなく、簡単なことは自分達でこなしていた。手続きや給与のことは社長自らやっていたので、これで社員達、社長もかなり負担は楽になるだろう。
「と、言うわけで今日から事務方に就いてもらうことになった…自己紹介、してもらえるかな?」
若干鼻の下が伸びているような気がする社長が、横にいる小柄な女の子に声をかけた。
「はい。初めまして、百瀬玲愛(ももせ れいな)と申します。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をして顔を上げればふわりと笑みを浮かべる。その容姿は誰が見ても《愛らしい女の子》だった。頭の先から爪の先まで可愛さが滲み出ている。
「めちゃくちゃ可愛いっ!!」
「俺、仕事頑張れる!!」
「女神降臨!!」
歓声が上がって、男臭い職場に花が一輪咲いたかのようだった。
だが、3人を除いては…
「…あんな餓鬼、雇って大丈夫なんだろうな?ちゃんと仕事できんのか心配だぜ」
「宇髄、それは少し失礼だと思うぞ!確かに子供っぽいが…どことなく陽奈子に似ている!」
「…アホか、寝言は寝て言えやァ。」
宇髄、煉獄、不死川だ。
彼らは彼女を見ても特に何とも思わないらしい。
「席は…あいつの隣だね!おい、煉獄!」
「はい!」
社長に名を呼ばれ、勢いよく挙手をする煉獄。
その煉獄の姿に百瀬は「くすっ」とまた柔らかく微笑むのだった。
煉獄の隣が空いていたので、百瀬の席はそこになった。
「よろしくお願いします」
「うむ!俺は煉獄杏寿郎だ!これからよろしく頼む!分からないことがあったら、何でも遠慮なく聞いてくれ!」
煉獄がハキハキと挨拶をして握手を求めるように手を出せば、少し頬を染めて出された手を百瀬が遠慮がちに握る。
「(!!小さい手だな…、本当に陽奈子にどことなく似ている…)」
握ったその手は小さく、華奢で力を込めればすぐに壊れてしまいそうなほどだった。