第6章 結び *
杏寿郎がニヤリと笑いこちらを見ると、何を考えているのかすぐ分かった。「もう観念しますから、許してください」と懇願すると、満足げに笑った。
「では、話してもらおうか?」
私は白状することにした。これ以上辱しめられれば自分の身が持たないと感じたからだ。
「…し、幸せだなって思ったの。なんでもない瞬間だったけど、こうして杏寿郎と過ごせる時間が、すごくっ…幸せだって…改めて大好きだなっておもえ…」
言い終わる前に抱き締められていた。ぎゅうっと力強く、だけどどこか優しくて…
「俺もだ、陽奈子。君と過ごす時間は本当に幸せだ。こうやって会うたびにいつも胸が高鳴っている…」
ドクン、ドクン、ドクン
杏寿郎の胸に耳を当てると鼓動が速まるのが聞こえる。
「うん…よく聞こえる。いつも余裕そうに見えてたけど…やっぱり違うんだね」
「あぁ。きっと、いつになっても緊張はするものだ!それだけ陽奈子のことを好きだ。会えば会うほどもっと君と言う人を知りたいと…触れたいと思う」
杏寿郎の手が私の顎に添えられ、優しく上を向かせられれば互いの瞼が閉じ、唇が重なる。
重ねられた唇が離れれば、杏寿郎の瞳にはギラギラとした獣のような光が宿っていた。
「陽奈子、君が今すぐ欲しい」
熱を持った瞳で見つめられれば縫い止められたように動けなくなる。
甘い台詞でそんなことを言われれば断ることなんて出来はしない…
「はい…」
恥ずかしさで小さくひとつ、返事をした。
それから私達は場所を移し、互いの身体を確かめ合うように重ねあった。
甘い時間を過ごせば、別れが寂しいと感じてしまう。
杏寿郎に抱き締められ、胸に頬をすり寄せる。
「帰りたくないな…離れるの寂しいもん。」
杏寿郎は片手で顔を覆い、そっぽを向きながら呟く。
「はぁ、君はホントに煽るようなことを言うんじゃない。俺だってもっとこうしていたい。君に触れたいのを我慢しているんだ…今日はもう遅い、送っていこう」
杏寿郎にそう言われれば、我慢をしてしぶしぶ帰り支度を始めた。