第1章 本編
数分間のウォーミングアップの後、レギュラーは試合をする事になった。
試合形式は10分の時間制で、対戦相手はくじ引きで選ばれた。
「組み合わせを発表する」
と監督が読み上げていく。
「宍戸-日吉、向日-樺地、跡部-鳳、忍足は審判を頼む」
監督が珍しく来ているので、みんな張り切っているようだ。
「よろしくお願いします」
「あぁ」
俺の相手は、あの人。
しかも今日は先輩も見ている。
(先輩…見ていて下さい…)
グリップを強く握り締め、構えた。
ボールは俺の懐目掛けてやって来る。
「はっ!」
俺はラケットを振った。
10分はあっという間に終わった。
「…ありがとうございました」
俺はしっかりと握手をした。
(負けたか…)
この人に勝とうなんて、まだ早かったのかもしれないな。
俺はため息を漏らした。
「お前インパクト時にグリップを握り直す癖があるな」
「えっ」
「いい試合だった」
そう言って立ち去るあの人を、俺は心の底から尊敬していた。
(たった10分で俺の癖を見抜いた!?)
「ははっ…本当にあなたにはかないません…」
俺はポツリと漏らし、コートを出た。
「けいちゃん!」
「何だ、また来てたのか」
そう言って、優しく微笑むあの人の顔が眩しくて、俺は目を逸らした。
(こんなの…ただ現実逃避、だな)
「今日もカッコ良かったよ」
と、満面の笑みを浮かべる先輩の顔が、俺には苦しくて、痛くて、辛かった。
「当然だろ」
「うん!でもー…けいちゃん、焦ってたねー♪」
そう言ってイタズラに笑う先輩がいた。
「っ!お前…」
(なっ!?あの人が焦ってた!?まさか…)
俺は困惑した。
コート上では、いつものように冷静沈着なプレーをしていた。
「私が見間違えるわけないし(笑)」
「言ってろ」
俺は知らなかったんだ。
何一つわかっていなかった。
この時はまだ…