第5章 喧嘩は程々に!
鋭利な歯を見せて笑ったかと思いきや、右の頬を殴られた。
いってぇな!口の中切ったじゃねぇか!!
奴の指を一本だけ掴み、折る勢いで斜め上に引っ張り上げてやる。
痛みに怯んだから先程のお返しに頬を思いきり殴ると奴が私の上から退いたので、急いで立ち上がって体勢を立て直す。
互いに睨み合い、重い沈黙が流れる。
先に沈黙を破ったのはあいつの方だった。
「あはっ。雑魚が雑魚狩りやってるって思ってたけど、あんた意外とやるじゃ〜ん。こんな本気出したの超久しぶり!」
「私も陸に上がりたての稚魚だと思って舐めていたよ。正直ここまで粘るとは思わなかった。馬鹿にしてすまなかったね」
適応力が高いのか、元々の身体能力が高いのか、それとも両方なのか、陸に上がって一カ月も経ってない人魚がここまで動けるなんてすっげー驚いた。
こりゃ稚魚扱いしたことは撤回せざるを得ないな。
でも、それはそれ。これはこれ。勝負はまだついていない。
私もあいつも唇の端が切れて血が滲んでいるけど、痛みより高揚感が勝っている。
互いにニヤリと笑って同時に駆け出した時──。
「こらー!!何してるんですか貴方達!!!」
「「……あ」」
騒ぎを聞きつけた学園長に見つかり、私と彼は長ーーいお説教をくらい、罰として一週間の謹慎処分と一カ月間の雑用係を言い渡された。退学にならなかっただけマシだけどね……。
むしろ窓二枚、ドア一枚を破壊し、廊下を氷漬けにしたのに退学にならなかったのが驚きだ。
……そういえば少し離れた所に彼によく似た人がいたけど、もしかして双子なのかな?
ちなみにヴィルには、しこたま怒られました。
「アタシが来年寮長になったらこんな騒ぎ起こしたら承知しないわよ!」とまで言われた。
彼……フロイドはフロイドで銀髪の子に説教くらったみたいで、ずっとイライラしてて不機嫌だった。
あ。あのフロイドって奴、どこかで見たことあるなと思ったら入学式で騒ぎ立ててた奴じゃん。なんで騒いでたのか知らんけど。
何はともあれ、私とフロイドは一週間の謹慎処分を経て復学したわけだけど、雑用をサボろうとするフロイドを追いかけてまた学園長に怒られるのだった……。