第6章 言ノ葉【沙明】
翌朝。時間になってもツバサが来ない。
いつまで経っても姿を現さない彼女に、痺れを切らす者もいた。
「……ふむ、ツバサが一向に現れないようだが、会議を始めるか?我々がこうして彼女を待っている間も、時は空しく流れてゆくものだ」
「はァ……まったく、僕は彼女を待っていられる程優しくないンだけど?ツバサがここに来ないンだったら、彼女をコールドスリープさせればいいンじゃない?それが一番手っ取り早いと思うけど」
「ツバサはグノースに穢された身であると。そうでなくても、自らの役を放棄した哀れな羊であることに変わりはありません。」
……まずい、ツバサが凍らされる流れになってしまう。
このまま彼女が凍ったしまえば、また次のループで一からやり直しだ。
しかも、次の船にツバサが乗っているとも限らない。
意を決して止めさせようと口を開いた時、
「……やめろ」
低く、それでいて奥深くに怒りの炎を小さく灯したような声。
私が今までに聞いたことも無い沙明の声だった。
「何故?そもそも、キミは誰が凍ったって、誰が消されたって構わないだろう?自分さえ行動が可能であれば、それでいいという主義だったはずだけど?まさか、誰が凍ってもいいけど、自分とツバサだけは凍らせないで欲しいって?とんだエゴだね。聞いて呆れるよ」
「……そうですケド?ツバサと俺だけは凍らせないで欲しい。アーそうですよ俺の勝手なエゴですよ。もしかしたらアイツは俺達の敵で、この船を制圧しようと企んでるかもしれねェ……でもな、俺はアイツが敵だとは思えないし、思わない」
いつもの態度からは想像できない、真面目で意思の強い沙明の姿。
ツバサを守ろうと闘う彼の行動に、私は少し唖然としてしまった。