第2章 Messiah【レムナン】
翌朝。昨日のこともあって最悪の寝覚めだ。
嫌われた……?引かれた……?
僕は彼女に惹かれた。本当の意味で。
彼女になんて言えばいいだろう。謝る?距離をとる?
距離をとるのだけは嫌だ。
彼女に謝らなければ。
自動ドアから廊下に出て食堂へ入る。
そこには昨日と同じ席に座るツバサさんがいた。
「あ、レムナン……」
昨日の朝のような親しげな雰囲気はない。
あるのは気まずさと緊張感だけ。
今日もハムエッグトーストをプリントアウトして席に向かう。
でも、僕の足はツバサさんの方へと向かっていた。
脳が彼女に謝罪しろと促す。
「ツバサ、さん……ご一緒しても、いい、ですか……?」
苦手な人に話しかける時のようなよそよそしさ。
断られるのが怖くて自然とそうなってしまった。
「うん、いいよ……」
合わない目線でそう答える。
断られなかっただけマシだ。
了承を貰ったので向かいの席に座る。昨日と同じ位置。
「ツバサさん、昨日は、その、本当に、すいませんでした……!」
「いいよ、謝らなくて……私のレムナンに対する配慮が足りなかっただけだから。気にしないで……?」
「いえ、そんな……」
「レムナンが女の子苦手なの知ってたのに、あんなこと言っちゃって。でも、あれは本当に友達って言う意味でのことだからね……?レムナンと仲良くできないのは嫌だから……」
ズキリと胸が痛む。自分で蒔いた種だ。
その種から伸びた茎が急速に蔓を伸ばし、僕の首を絞める。
もう、彼女には伝えないでおこうか。密かに生まれた恋心。
僕の中だけに留めておこうか。
「はい……僕も、ツバサさんと、仲良くできないのは、嫌です」
これは本当だ。上手くもない演技をする必要もなく、純粋に思ったことを言った。
その言葉の意味を隠すために適度な演技をしたとはいえ。
「そうだね、……もう昨日のことは水に流そう!ね、ほら。気まずい雰囲気なくそ?」
「ふふ、そうですね。いつまでも暗いままじゃ駄目ですから」
ああ、彼女は本当に素晴らしい。
気まずさと緊張感を消し飛ばして、僕を笑顔にしてくれる。
本当に魔法使いのような人だ。