第22章 兄と弟
今思えば、この世界に来てから、私にとって良いように進んだことも原因の一つかもしれない。
私にとって、この世界は現実だけど、現実ではなく、鬼滅の刃という本の中の世界だ。
最初から実弥さんに拾われるという幸運から始まった。
煉獄さんのことや、お館様のこともだ。自分がそうなればいいと思ったことが、タイミング良く起こったり、そのまま実現した。だから、何となく私の思い通りに展開して、こうなって欲しいという希望通りに進んでいきそうな気がするようになっていた。
今、このようなどうしようもできない状態になってしまってから、自分自身に目を向けた。いや、向けざるを得なくなった。
勘違いしていた自分に、だ。
そんな事、あるわけがないのに、疑問にも思わず過ごしていた。
思い上がりも甚だしい。
そんな自分に吐き気がする。
何の因果でこの世界に来たかは分からない。でも、ここは現実だ。本の中の世界なんかじゃない。
私もこの世界で実際に生きているのだ。
お腹もすくし、怪我をすれば痛い。日々の生活を回していかなければ、生きていけない。
分かっていた筈なのに。
実弥さんにとって私はただの同居人。お館様から言われて、渋々居候させていただけだ。
あまり認めたくなかったその事実を、改めて受け止める。
辛い、辛い、辛い…
胸が締め付けられるような、それでいて引き裂かれるような感覚が、襲いかかってくる。息がうまくできない。涙が溢れてくる。
何でこんな事をになってしまったのだろう。
苦しい、苦しい、苦しい…
…玄弥くんとの仲を取り持とうとか思わなければ、
そのまま実弥さんと生活できていたんじゃないか…。
頭に浮かんだその言葉を取り消すように、頭を振る。
何て事を考えているのだろうか。
自分で決めたことなのに。自分がそうしたいと思ったことなのに。
一瞬でもそんな事が頭を過った自分自身に、嫌悪感が湧き上がる。