第22章 兄と弟
「詳しく聞かないのかよ?」
「聞いて欲しいなら聞くけど。でも、その気持ちとか内容とかは、私が知っていいことじゃないと思うから。私はただの居候だしね。だけどさ、玄弥くんはすごいのね」
「はぁ?」
眉間に深く皺が寄る。そんなとこは実弥さんに似ているなぁと思いつつ、話を続ける。
「実弥さんに会う為に今まで頑張ってきたんでしょ?違う?こんなに頑張ってるのに、今日話を聞いてもらえなかったら、私を恨んでくれていいからね」
「…なんだよ、それは」
更に眉間に皺が寄るし、顔はかなり怪訝そうだし。
玄弥くんだと分かってるから、こんな反応されても変わらず話せるけど、普通だったら逃げちゃう位の機嫌の悪さだ。
だけど、私は知ってる。
だから関わってる。でも原作にはない事をしているから、どうなるかは分からない。
「だって、それは私の力不足だろうから。でも、私も頑張って話してもらえるように、援護するよ。もうひと踏ん張り、頑張ろう」
「…あぁ」
少しだけ眉間の皺が緩んだ。
良かった。
信頼関係を作るには時間が短すぎる。だけど、この少しの間だけは、私の事を信じてもらえていればいい。眉間の皺が緩んだのは、そう思ってもいいだろう。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
そう言って席を立つ。華子さんに声をかけて、持ち帰りのおはぎを受けとる。玄弥くんはさっさと店の外に出ていた。
「おまたせ。さぁ行こう」
外で待つ玄弥くんの表情はやや固い。不安が私にも伝わってくる。それをはね除けるように、笑いかける。
だけど、玄弥くんはやっぱりそんな私の顔を睨むだけで返事はない。随分と背が高いから、睨まれたように見えただけかもしれないと、いいように捉え直す。
いつもの道を戻る。
今日は少し後ろから、一人ついてくる。
声をかけても、返事はほとんどない。
まぁ仕方ない。
何だかんだで、私も少し緊張している。それを隠すように独り言のように話し続ける。
端から見れば、変な二人組だろう。だけど、誰にも突っ込まれることもなく、気づけばお屋敷まで戻ってきていたのだった。