第18章 休日と音柱 *
【実弥side】
部屋から出ていくノブの姿を見送る。
何でこんなことをして平気なのか。こんな状況を嬉しいと言えるのか。
あいつにとっては嫌なことだと感じてないらしい。
それに、宇髄との口づけの上書きだと言って、俺のモノに口づけしていた。
これがなぜ上書きになるのか理解できなかったし、今考えても全くわからない。
もっとわからないのは自分だ。
俺のモノではなく、俺で宇髄の上書きをしたいと思った時にはもう言葉に出ていた。
一度だけ。ただ唇を重ねれば、宇髄の上書きにはなる。それだけで優越感は味わったはずだ。
だが、思いの外柔らかい感触が心地が良かったのも事実だ。
その後はノブを驚かせる、それだけの理由だった。
そう、そのつもりだった。
匡近に連れて行かれた遊郭で、一通りの経験はした。だが、皆が言う程の快楽はなかった。
気持ちは良かったと思う。だが、形式張ったやり取りは、またしたいと言う気持ちも起こらなかった。
相手の事を考えたり、時間を取られる事を考えるなら、一人で出した方が効率的だ。
欲を出す事は同じだ。
その後も匡近に誘われたが、行くことはなかった。匡近がいなくなってからは、声をかけられることすらなくなった。
ノブとの口づけもそれと変わらないと思っていた。最初は驚かせるために、深く口づけただけだったはずだ。
俺の予想通り、驚いた。
だが、俺の方も驚いていた。
ただ驚かせるだけ口づけだった筈が、遊女としたものとは全く違っていて、身体中に快楽が駆け巡った。
そうなれば、もう快楽のまま、欲望のままに、あいつの唇を何度も貪った。
ただの口づけがこんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。
恋仲だった人はいなかったのかと、聞かれた。
いるわけがない。そんなものはいらない。
遊郭へ行ったことに、嫌悪することもなく、クスクス笑う姿は俺が無理やり連れて行かれた姿を想像したのだろう。