第17章 休日と音柱
【実弥side】
宇髄の考えていることは分からねぇ。
ノブを俺の嫁だと言っておきながら、自分の嫁に来いと言う。既に嫁が三人いるのも理解できないが、更に嫁を貰おうとする事に、理解に苦しむ。
厠から戻って来ないと思ったら、風呂上がりのノブを捕まえて口説いてやがった。その姿を見た時、二人の距離の近さに苛立ちが全く隠せなかった。
殴ってやろうかと思ったが、ノブの声で一度冷静になれた。
それに宇髄は気づいていたのだろう。
ノブは自分だけからかわれたと思っているようだが、俺もからかわれていたのだろう。
でなきゃ、好きかどうかの問いは必要ねぇ。
だけど、今日だけはノブの答えに満足した。
宇髄と比べて俺の方が上だと分かった時の優越感は、先程までの苛立ちが消えるほど自分の中を満たした。
それこそ宇髄の思うつぼなんだろうがなァ。
宇髄との呑む時間は嫌いじゃねぇ。
だけど、今日ばかりはあまり気が進まなかったのも事実だ。
ノブとこのまま過ごす時間の方がいいと思ってしまっている自分にも苛立つ。
ノブがここから出て行く…
いつかは出ていく。早く出て行って欲しいと思っていたのに、宇髄の所に行く事を考えると苛ついた。
あいつは俺の所有物でも何でもない。どこへでも好きに行けばいい。俺に止める権限はねぇ。
だが、そう考えると同時に、ノブはここから出ていかないような気もしている。記憶が戻るか、俺が追い出さない限り、ここから出ては行かないだろう。
「おい、不死川。黙り込んでるが、酔ったか?」
久しぶりの酒だァ。宇髄が目の前にいるのに、こんなことを考えるなんぞ、酔ったからだろう。
「…宇髄、嫁に来いって言ってたが、本気かァ?」
何故かふいに口から出た。どうも酔っているようだ。
「…本気だ、と言ったら、お前はどうする?」
茶化されるかと思ったが、宇髄は急に真面目な顔になり、質問で返される。
俺はどうするか…。考えても仕方がねぇ。
「…どうもしねえよ。あいつが選ぶだけだァ」