第10章 秘密 *
部屋に戻って布団に入ったはいいが、目は冴えている。さすがに寝れそうにない。
快楽に酔う実弥さんの表情は、厭らしくて艶やかだった。いつも眉間に皺を寄せているけど、あの耐えるような表情は、かなりの破壊力だ。
思い出すだけで、ゾクゾクとしてくる。
それに…
あの、顎クイは反則だ…。まだ顔が火照っている。
少女漫画の世界だ。
全く躊躇なく、慣れた様子でしていたけど、顎クイって、そんなに普通にするもんなのか?なんなら、壁ドンとかも、普通にしそうだ。
ん?もしかして実弥さんって、前も思ったけど、天然のタラシなんじゃないかな。絶対そうだ。今みたいに睨み付けてばかりじゃ、女性どころか人も寄ってこないけど、元々は優しい人だ。笑顔も寝顔も天使のようだし。
実弥さんの本当の姿を知れば、言い寄ってくる女性も増えるんじゃないだろうか。
実弥さんの女性経験はどうなんだろう。今は彼女の気配は全くない。本の世界でも、女性の気配はカナエさん位だが、彼氏彼女の関係ではなかったと思う。
いや、そう信じたいだけかもしれない。
今日のことは、今までで一番気持ちが良かったと、言ってくれた。実弥さんの性格上お世辞なんて事は皆無だから、本当なのだろう。
実弥さんの女性事情が気になるとこだけど、無惨を倒すまではこのままだろう。倒したあと、子を為す女性が現れるのだ。死が目の前に迫っていてなお、一緒にいたいと思う女性が…
そう考えると、少し胸がチクリと痛む。
だけど、これは仕方のないことだ。私はこの世界の人間ではないし、ましてや若い女性でもない。
いつまでここに居られるのだろうか。まだこの世界にいられるのだろうか。いつか帰ることが、あるのだろうか。
せめて無惨を倒すまでは見届けたい。
そのあとは、なるようになるだろう。
考えても仕方のないことばかりだ。
今この瞬間を全力で過ごすしかないのだ。あとから後悔しないように。