第40章 きっかけ
記憶が戻ってから、杏寿郎と仕事の話でも雑談でも、どんな話をしていても、顔を見ると会いたかった顔がそこにあることが嬉しくて涙が出そうになる。
杏寿郎も同じ様子で、あまり目を合わさず、必要最低限の事しか話さない。
でも、お互い、目の端で姿は追っていた。背中に杏寿郎の視線を感じることもあるし、私も懐かしい背中が見えればつい見てしまう。
何かゆっくり話すきっかけが欲しい。
・・・そうだ。飲み会の日に杏寿郎が言っていたあれがいい。
は、自分のスマホを持ち、杏寿郎へメッセージを送った。
「金曜日の部活の後に、剣道の試合をして下さい。」
と。
前世では戦いの中で出会った。そしてずっと2人で鍛錬ばかり行っていた。現世もお互い剣道をしている。
きっと竹刀を交えれば、私に記憶が戻っていることに気付くだろう。
前世でも、稽古の合間に縁側で庭を見ながら二人でたくさん話をした。それをやればいい。
で、そこからまた始まってもいいし、残念だがそこで終わってもいい。私達らしい。
杏寿郎からも
「お手柔らかに頼む!」
と返信が来た。